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少年は落ち込んで項垂れたまま、言葉に迷う素振りを見せる。それでも「何とか意を決した」というように、顔が上げられる。
それでもその目には泣きそうな色が、迷いが、罪悪感が、今にも零れそうなほどに湛えられていた。
その表情はあまりに痛々しくて、可哀想で、「無理に話さなくても良いっすよ」と言おうとした。言おうとしたけれど、陸斗 の言葉は他ならぬ少年本人に遮られる。
「陸斗さんを刺した犯人が、陸斗さんを刺す事になったのはオレが原因です。陸斗さんの怪我が悪化して、今こうして記憶が混濁しているのだって。約束したのに、……海里 さんのこと、だって」
「ッ、海里、」
腹が痛む。心臓が痛む。海里のことを守ろうと伸ばした手だったのに、それは海里に届かなくて。海里は、あの男に……!!
頭を抱え、そのまま髪を掻きむしった。いっそこのまま頭皮も何もかも突き破って、脳もぐちゃぐちゃになってしまえば良いのに。海里を守れなかったオレが、どうして生きてるんすか!!!
放っておいたらそのまま血が出るまで掻きむしり続けかねない陸斗の手を、少年が掴んで止める。
「ダメ、ダメです、陸斗さん。そんな事したら……オレが言えた立場じゃないけれど、海里さんが悲しみます」
「アンタが何を知ってるんすか?」
おかしい。「泣かせたくなかった」のに、陸斗の口から出てきた言葉は、ぞっとするほど冷たくて。それでいくらか陸斗も冷静さを取り戻す。
なんとか「ごめん」謝罪を絞り出したけれど、少年はきっぱりと首を横に振った。悲しそうな顔で。
「もちろん、許さない、なんて言ってません。陸斗さんが謝る必要なんてないんです。原因はきっとオレにあります。オレがもっとしっかりしてれば良かった。オレが甘えてしまわなければ。後悔することは沢山あって、陸斗さんに沢山償わなくちゃいけなくて。ごめんなさい、オレ、うまく出来ていませんね」
「……キツい言い方しておいて説得力はないだろうけど、アンタのせいなんて思ってないからさ。償うとか、いらないっすよ」
「……それは。失礼を承知で言いますけど、陸斗さんが覚えていないからです」
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