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何でだろう。もう少し考えようとして、突如襲われた頭痛と腹の痛み、どうしようもない拒絶に陸斗 は慌てて思考を打ち切った。
もしかしたらその先に「答え」があるかもしれないとは思うが、脳に直接手を突っ込まれて無理矢理に裏返されたような感触が、ひどく気持ち悪くて、めまいさえする。本能がそうさせたのか、陸斗の手は自分の腹を注意深く探っていた。
もちろん、手が血でべったり、なんてことはないし、「慎重にそっと」とは言え傷口に触れたことによるピリピリした痛み以外は、もうなにも感じていない。
また同じ場所を刺されたのかと思うほどの痛みだったのだが、錯覚なのか。「それほど触れたくない過去」なのか。多分、「後者が原因で起こった錯覚」なのだろう。
「……そうか」
「ごめんね、参考にならないっすよねぇ、特に最後のじゃ」
「いや、十分分かったよ。オレも、それなりに知ってるヤツだった。……それと、陸斗はやっぱり陸斗だって思ったな」
「? どういうことっすか?」
「こっちの話だよ」
港 は複雑そうな色を残したまま、それでもニカッと笑ってみせた。
明らかに無理している。でも、どこかで「本当に笑いたい」気持ちがあっての笑いにも見えて、陸斗はホッとした。
海里もだいぶ参ってしまっているけれど、港も結構弱っている。
記憶の中の港に比べて、外見が明らかに変わったってワケではない。それでも両目には隠しきれない「やつれ」「自責」があって。
だからこそ複雑そうな色を残していても、無理をしていても、それでも「笑いたい」って気持ちを持って笑ってくれていたことに、安堵せずにはいられなかった。
港も、波流希 も、海里にとって凄く大切な人だからできれば幸せでいてほしいし、あまり心労だって掛けたくない。それで償いになるとは思ってないっすけど。
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