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「1つ、聞いても良いっすか?」
海里 はもちろん、港 たちだって傷付けたくはない。それは陸斗 の本音であるから、聞く事は戸惑った。あの少年のことは、陸斗にとっても港にとっても、少し触れにくい事のように思えたから。
だけど、そんな気持ちに反するようにどこかで陸斗に訴える声が聞こえる。「───の調子は?」「あの子が傷付いて良い筈もないんすよ」「だってオレは、───だって守りたくて」
その声は自分の物だった。あの少年の事なんて知らないはずなのに、自分の声で、自分の感情だと理屈抜きに理解して。
理屈抜きの理解。理性や思考の域を越えた「ナニカ」。それでも名前だろう部分にノイズがかったのは、仕方ないのかもしれない。
そうしたモノによる思考だったから、「いいぜ」という港の肯定を受けてから、それでも、迷った。本能に抗うように。
迷ったけれど、結局思考はその疑問を胸の内に収めようとはせず、口を開かせた。
「その少年、元気……って聞き方は違うと思うんすけど、少しはマシになってた? ここに来た時、自分のこと責めまくって、見ていられない顔してたんすよ」
「オレが原因なんです」「責めてもらおうというのさえ、甘えなんです」。そんな風に語る小さくて弱々しくて、今にも消えてしまいそうな少年を思い出す。
同時にその言葉は、陸斗が海里 にしたことを思い起こさせるに十分だった。「なにをしたって償いになるワケがない」「罰してもらいたいという願いさえ、おこがましい」。陸斗は事実ソレだけの事をした。いくら海里が微笑んで許したって、結局のところ許されはしない事をしたのだ。
だけど、少年は。
「ソレだけの事」を仕出かした陸斗のような事を呟く彼は、でも、なにもしたようには思えなかった。
根拠なんてない。しいて言えば「腹の傷が痛まない」だけ。だけどそれが、今現在ぐちゃぐちゃになっている記憶なんかよりも、よっぽど信頼できる気がして。
だから、そんな少年のことも、陸斗は気に掛かっていた。
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