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「オレはアイツのこと、大嫌いなんだよねぇ。いっつも、いっつも、邪魔だったんだもん。ここにきて悪化してるんだけどさぁ」
わざとらしいほどの大きな溜息だけれど、それは決してわざとではないんだろう。柚陽 は本当にそれだけ大きな溜息を吐きたいんだという事が、よく分かる。
それでも「アイツ」なんて濁した言い方をしてくれたのは、陸斗 に気遣ってくれてか。それとも「名前も呼びたくない」ってほどに、隼也 を嫌っているのか。
まあ、9割くらい後者だろうけど。でも、柚陽の大きな目に宿ってる光が、少なからず陸斗に対しても気を遣っていると語っていた。それはおそらく、陸斗のうぬぼれではなしに。
ふわふわとした髪を、「あーあ」なんて言いながら掻きまわす。
「オレにだって嫌いな人は、いっぱいいるよー。りっくんが覚えてるかは分かんないけど、ガキは嫌いだし、港 や先輩はやっぱりうざいもん。でもね、憎んでいて、オレの信条さえ崩れたのはアイツだけ」
そう前置きして柚陽が語ったのは、隼也の過去についてだった。
紗夏 の人間関係を管理して、「紗夏を守る」と掲げていたソレは、波流希 を彷彿とさせた。似ている、かもしれない。でも、全然似てないっすね。
なんせ波流希の方は海里 本人を想っていたし、海里も波流希を「はるにい」と慕っているから。
隼也についてはあまりに一方的で、吐き気さえ催すほどの嫌悪感に襲われる。堪える様に思わず口元を手で覆えば、柚陽は小さく微笑んでから、こてんと首を傾げた。
童顔に凄く似合う、かわいい仕草。だけど、
「でもさぁ、オレの言うことをそんなに信じちゃって良いの? りっくん、オレのこと割と覚えてるなら、なにをしたかも知ってるよね? ほんとはもっと悪い人がいるのに、オレがアイツの心象を悪くしようって企んでるだけかもよ?」
その目は真剣で、でも確かな怒りと、まっすぐな気持ちが宿ってた。なんか、「絶対にアイツは許さない」みたいな。
確かに柚陽のした事はほとんど覚えていて、「隼也が悪い」という根拠は、名前を聞くだけで感じる腹の痛みだけだ。「根拠」なんて言えないものかもしれない。
だけど、と。
陸斗はふるふると、首を横へ振った。
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