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「アンタのことは、恨んでないと言ったら嘘になる。騙されたことや、写真のこと、マンションのこと。いくらでも挙げられるっすよ。だけど、それはアンタなりの海里 への愛だったんでしょ? 受け入れられないし、恨んでる。だけど、だからと言ってアイツと相打ちになっちまえ、とは思わないよ。そうなったら紗夏 くんが悲しんで、ますます自分を責めそうだし」
紗夏のことを陸斗 は覚えていない。
なんとなく感じるものはあるし、既視感も抱くけれど、そこに記憶は伴わない。
でも、紗夏が悲しんだり、自分を責めているところは見たくないと思った。そう、紗夏には自分の包帯をうっとりと撫でている姿の方が似合いそうなのだ。
それに、いくら誰が“そう”言ってくれたって、陸斗にとって、ソレは変わらない。
「オレは自分で選んだんすよ。確かにアンタはオレを騙してた。オレはアンタに騙されていたのかもしれない。でも、あの時オレが柚陽を好きだったのは本当で、柚陽 を幸せにしたい、柚陽と幸せになりたいって思ってた。だから柚陽との幸せのために、海里は不要だと見なして、壊そうとしたんすわ。それは変えられない真実っすよ。誰が言ったって、オレ自身がソレ以外のことを事実とは認めないっす」
「オレがそうさせといてなんだけど、りっくんも生き難い生き方を選ぶね」
柚陽が呆れと寂しさを綯交ぜに、小さく呟いた。
「そうっすね」と曖昧に、ぎこちなく笑う。
「じゃあ、りっくん。さっきのお願いは撤回して、もう1回、お願いします」
そんな陸斗に柚陽は小さく微笑んでから、すぐに真剣な顔になると、頭を下げた。
「オレは紗夏がオレ以外のせいで傷付くのを見たくないから、だからもう、覚悟は決めた。決め直したよ。オレがアイツをどうにかしてくるまで、その間だけ、オレの代わりに紗夏を守ってください」
深々と頭を下げたまま告げられた声に、陸斗は今度もあっさりと言葉を返した。
「うん、良いっすよ」
それから、と言葉を付け加える。
「アンタはきちんと、帰ってくるんすよ」
陸斗の言葉に柚陽はゆっくり顔を上げて、大きな目にはいたずらっぽい光を添えて、無邪気な笑顔を見せた。
童顔の柚陽に、とても良く似合う笑顔で。その笑顔に見合う、明るくて無邪気な声色で。
「当たり前でしょ」
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