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幸せを待つために幸せを守る

「あ、あの、本当良いんですよ? オレのことなんて放っておいてくれても」 「そうはいかないっすよ。オレは柚陽(ゆずひ)と約束したんだから」 「でも、陸斗(りくと)さんは柚くんのことを恨んでいるでしょう? 嫌いでしょう? それなら、柚くんのお願いなんて聞く必要もないと思うんですけど……」  気弱そうに、申し訳なさそうに。  眉は垂れ下がって、目は伏せられていて、それでも陸斗の言い分を頑として受け入れない。紗夏(さな)は案外頑固なのかもしれない。そんな風に思って、不思議と納得した。「そうなんすよ。この子、結構頑固なんだよねぇ」。なんて声が聞こえてくるような感覚。  そんな自分自身の声に、やっぱりオレはこの子を知ってるんだろうと改めて自覚する。  さて、そんな自覚が出来たところで問題は解決していない。  陸斗には「紗夏を守る」という使命がある。まあ、「使命」と言うよりは「約束」で、陸斗が勝手に果たしたいと思っているだけだけど。  それに世間一般から見れば放棄してもおかしくない「約束」でもある、かもしれない。なんせこの約束をした相手である柚陽は、陸斗を騙して、陸斗の恋人を傷付けたんだから。まあ、あれだけ必死に頭を下げた人間の願いを棄却するのも、それはそれで「人でなし」と糾弾されそうではあるが。  とは言え、陸斗にはそんな他人の言い分なんて、一切関係ない。気にしてもいなかった。  この問答も何度目になるんだろう。うんざりとはしないけれど、ここまでさせる紗夏の心の傷には陸斗の心さえ痛むのを感じて、陸斗は精一杯に微笑んだ。  頑張って、普通に見えるように。  ここで「心が痛んでいる」のを紗夏に悟られたら、紗夏のことだ、ますます心を痛めてしまいそうである。それは絶対に避けたい。 「確かに柚陽のことは簡単に許せないっすけど、それはそれ。オレは紗夏くんのことを守りたいんすよ。頼りないかもしんないけど、柚陽が戻ってくるまではちゃんと責任持って守るからさ」 「だ、だけど!」 「オレが守りたくて守ってる、っていうのもあるしね。オレの我儘だと思って、付き合ってくれないっすか?」 「陸斗さん……」  呟くように名前を呼んで、それきり黙り込んでしまった紗夏に陸斗は「弱ったな」と思いながらもやわらかい苦笑を浮かべた。  これで少しは紗夏も安心してくれれば良いのだけれど、そんな風に思いながら。

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