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「お前、心配掛けるのもほどほどにしとけよ? そりゃあ、今のお前が紗夏 のことを無視できるとは思わねーけどよぉ……。柚陽 の家で倒れてた、って聞いた時には、オレだって心臓が止まるかと思ったんだぜ? 海里 のことを考えてやれよ」
「オレのことはそんなに気にしなくて良い。良いけど、やっぱ自分のことは大切にしてほしい、って言うか」
「ちょっと待って。ちょっと待ってほしいっす、港 」
呆れたように言う港の言葉が分からず、陸斗 は思わずストップを掛けた。港は陸斗の静止の意味が分からないと言うように怪訝な顔をしている。
怪訝な顔をされているからには、自分がなにか変なことを言ったのかもしれない。それはなんとなく察せるけど、分からないのだから仕方ない。港の言葉の意味が半分も……とは言わないけれど、根本が分からないのだ。
「えっと、ごめん、港。いくつか整理させてもらっても良いっすか?」
頭を押さえつつ記憶を引き出そうとするけれど、思い出せない。思い出せないというか、ヒットしない。いくら検索を掛けても、頭の片隅にさえ思い当たる項目がないのだ。
「紗夏とか、柚陽とか、誰っすか? オレが柚陽って人の家にいたとか、紗夏を無視しないとか。ちょっと分からないっす」
一瞬、港が呆然とした。でも、それはほんの一瞬で、だからといって内心の動揺も隠しきれいないらしい。
目があちこちに泳いでいる。「あー」とか「うー」とか、言葉になっていないうめき声を漏らしながらなにか言葉を探していることは明らかで、「聞いちゃいけなかったっすかね?」自分の質問が考えなしであったかと思う。
とは言え、分からないことを挙げられて「気を付けろ」なんて言われても、気を付けようがないのもまた事実なのだけれど。
「陸斗」
港の代わりに言葉を発したのは海里だった。
涙の跡こそ残っているけれど、やさしく微笑んで、そっと陸斗の頭を撫でる。体温の低さゆえに冷たいその手は、やっぱり記憶と違わずあたたかい。
そのあたたかさを受けるに相応しくないという自責の念が、胸を刺しはしたけれど。
「大丈夫。大丈夫だから、今はゆっくり休めって。港も倒れてるお前を見て、ちょっと混乱してるんだよ」
「港がオレのために、そこまで動揺するっすかねぇ?」
「そりゃあ、海里が悲しむって思えば動揺もするだろ」
「ああ、なるほど」
港の言い分に納得して、陸斗は小さく欠伸をする。確かにまだ少し、疲れているかもしれない。
「ごめん、もう少し寝るっすわ」
それでも呟くようにそう告げて、陸斗は目を閉じた。
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