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紗夏(さな)は、それじゃ嫌なんじゃないんすか? 腕は、どうしたんすか? アンタ達の恋愛観、オレには一切理解できないっすけど、それでもアンタの気持ちは本当だって分かったよ。アンタは柚陽(ゆずひ)が好きなんでしょ?」  分からない。  紗夏っていうのは、この少年のファーストネームかもしれないけど、それを知っている理由も、柚陽という名前も、なにもかも分からない。  自分で口にした言葉なのに、まるで他人が話すのを聞いているみたいな、奇妙な感覚っすねぇ。  だけど、違うと思ったんだ。オレの中のどこかが。  陸斗(りくと)はそっと片手で自分の胸に触れる。頭が、心が、彼等を拒絶しているけど、それでも、これは受け入れられなかった。 「……陸斗は結構なお人よしなんだよね」 「はっ、それが弟のように可愛がっていた幼馴染をあんなメに遭わせた男への言葉かよ? 第一、柚陽の肩を持つなんてロクなヤツじゃねぇだろ」  波流希(はるき)隼也(しゅんや)の会話に、ますます震えを大きくしてしまった少年が、弾かれたように陸斗の手を振り払い、自分の頭を抱える。  長い髪が乱れるのも気にしないで頭を振り、整った髪を乱すように掻き毟る。  それから、そっと、陸斗が「足りない」と思った方の腕に触れる。  その腕を見る目は今にも泣きそうだった。 「だって! だって仕方ないじゃないですか!! オレは、オレは(ゆず)くん以外、嫌だ。だけど、だけど、柚くんがあんなメに遭ってしまったら、オレは受け入れるしかないんです。だって柚くんは自分の信念をオレのために曲げてくれた。だったらオレだって、自分の信念も、腕も、捨てられます。柚くん……柚くんは、オレのせいで!!」

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