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ほら見ろ、勝ち誇ったように隼也 が陸斗 を見下して、なにか言いたそうに口を開いた。
だけどそれも阻むように、波流希 が「分からないでもないけど」と、言葉を続ける。
「オレも海里 が心配で、海里に幸せになってほしいと思ってるよ。だけど、海里の友人付き合いや、恋愛感情まで、オレの手で操作するつもりはない。海里があくまで好きな人の幸せこそ自分の幸せだっていうなら、オレはそれを受け入れて、少しでも海里の負担にならないように、それとなく動くだけ。それにオレは海里がオレを“はるにい”として望んでくれて、オレも海里のお兄ちゃんでいたいから、“はるにい”なんだよ。海里がそれをうざったいと思ったら、強要はしない」
「波流希……」
思わず力のない呟きが漏れた。
そうだ。波流希は陸斗が海里にひどい事をしたのに、無理矢理引き離そうとはしなかった。
それどころか、海里の性格がああなった理由を、どうにかして陸斗に話して聞かせてくれた。それは、海里がオレなんかを恨むことなく、まだ想ってくれていたからで。
改めて後悔に視界が揺れ、手が震える。どうにか震えを抑えようと作った拳も、小さく震えていた。
でも今は、感傷に浸っている場合じゃない。
「オレだって同じだ!! 月籐 が傷付かないようにって!! あんなクズ野郎と縁を切れるように、変な人間が月籐に近付かないようにって!!」
「それは紗夏 くんの意思だったの? 紗夏くんが頼んだの?」
「月籐はおとなしくて、流されやすくて、気弱だから、頼めるワケないだろ。だからオレが代わりに!!」
「オレは柚陽 のことが好きじゃないよ。許せないとも思ってる。だけど、紗夏くんは柚陽と一緒にいた時の方が幸せそうだし、自分が大切にしていた持論さえ、紗夏くんのために投げ捨てた柚陽の方が、よっぽど紗夏くんを想っているように見えるけど?」
「その名前を呼ぶなぁぁぁ!!!」
叫んだ隼也が、やみくもに暴れて波流希の腕を振り解く。
病室備え付けの引き出しを無理に引き抜いて、それを感情のまま、波流希の頭に向けて振り下ろそうとして、
「波流希!!!」
「波流希さん!!!」
叫び声は2人分。そのあと、何かを重い物で殴ったような、鈍い音がした。
骨が砕けるような音も、聞こえた気がする。
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