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「紗夏 !!」
目に入った光景に、陸斗 は思わず叫んでいた。
波流希 は無傷だったけど、代わりに紗夏が床にうずくまっている。片方の手で、もう片方の手を抑えて。
腕は皮膚が裂けて血が出ていて、ありえない方向に曲がっているようにも見えた。
……机の下敷きにしてしまった海里 の足が浮かぶ。
どこか歩き方がぎこちなかった、海里の後ろ姿が思い出される。
ゴツッ、という鈍くて重いが聞こえた。
隼也 が手にしていた引き出しを落としたらしい。
紗夏の細い体が小さく震えている。呼吸は浅く荒い。
「ナースコール!! 先生、呼ばないと」
この状況を説明するのは難しいだろうけど、今はそんなこと言っている場合じゃない。
止まる様子のない紗夏の腕の血に、陸斗は慌ててナースコールを押し込み、「見舞客が怪我したっす。早く来てください」と要件を伝える。
紗夏の震えはそうしている間も止まらない。
骨は折れていそうだし、皮膚も派手に裂けてる。痛いだろう。だけど、この子の震えはそれだけが原因じゃないように思えるんすよね。
「紗夏……」
「陸斗さん……」
震える声で名前を呼べば、うずくまっていた紗夏がゆっくりと顔をあげて、陸斗を見つめた。
その大きな目には涙が溜まっている。激痛による生理的なものなのか、それとも。
「柚 くんがオレにくれた傷、柚くんだけがくれた大切な傷跡だったのに。これで全部全部、ダメになっちゃいました」
溜まっていた涙が落ちて、そのままぼろぼろ零れていく。
皮膚が裂け、折れてしまっただろう腕をそっと撫でながら、涙を流しながら、紗夏は笑った。とっても綺麗で、とっても悲しそうに。
「柚くんがくれたんだ、ってずっとずっと大切にしていたのに。オレはこの傷だけでも幸せだったのに。欲張り過ぎましたかね? 陸斗さんが大変な時なのに、オレのせいで陸斗さんと海里さんは傷付いたのに。オレは柚くんへの想いが実ろうとしていた。だからバチが当たったんですかね? オレの幸せも、拠り所も、全部全部、なくなっちゃいました」
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