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駆け付けた看護師達に連れられて紗夏 が病院を後にするのを見送ってから、隼也 を睨むように見る。
ちょっとでも視界に入るのは怖い。だけど、文句の1つ2つ言わなきゃ気が済まなかった。
「……散々偉そうに言っていたっすけど、これがアンタの望んでいたこと、紗夏を守るって結果なんすか?」
「お前が悪いんだろ、陸斗 。月籐 を揺さぶるようなことを言うから」
だけど隼也は悪びれる様子もなく、当たり前のようにそう言い放った。
恐怖なんて忘れるくらいの驚愕に襲われる。コイツ、あれだけのことをしても尚、まだ罪悪感を抱いてないって言うんすか? 紗夏の事が好きだって言っているのに。
頭がくらくらする。オレだって海里 のことを傷付けて満足していた。だけどその時オレは、なんでか海里を憎んでいて、だからあんな愚かで許されないことをしてしまった。
人を傷付けて罪悪感を抱かない人間をオレは他に知っている気がする。だけどソイツは、自分の中の恋愛観があって、大好きだからこそ愛をもって傷付けるんだ、って言っていた気がする。
でも、コイツは。
くらくらする頭を抱えて、陸斗は隼也を見る。
隼也の目はまっすぐに陸斗を見返していた。怒りがこもった目で。
「……アンタが、紗夏から全部を奪ったんじゃないんすか? だって、あの子には」
さっきうずくまって、自分の腕を泣きながら見つめていた紗夏を思い出す。
全部なくなってしまったと言った彼の腕には、なにかが足りなかった気がする。あの子は、もっと愛おしそうに、もっと幸せそうに、自分の片腕を見つめていた筈なのに。
白い肌に目立つ、白い包帯……。
「あの子には、柚陽 からの……」
「黙れ。その名前を呼ぶなって。胸くそ悪ぃ」
隼也が苛立たし気に吐き捨てて、自分の頭をガシガシと掻き毟る。髪が乱れるのも気にしないで。
「あー」「あぁぁぁ」と獣のような唸り声をあげて。
それから急に電池でも切れたように腕を投げ出し、脱力すると、呟いた。
「あのクソヤロウ、あれだけ怪我を負わせても、まだ月籐から離れないのかよ……」
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