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陸斗(りくと)が前のままだったら、オレもここまで大変な思いをしなかったし、海里(かいり)だって傷付かなかっただろうになぁ……」  顔をしかめたまま、隼也(しゅんや)が吐き捨てる。  ……なんだろう、海里の名前を出されたからだけじゃない。すげぇ嫌な予感がするっす。  痛む気がする腹を、陸斗は咄嗟に抑えた。傷口は開いていないし、もちろん血なんて出ていなければ、手を赤く汚すこともない。  それでも。  それでも、痛かった。  だけどだからといって、海里を守るためにって、それをしていたら、オレは海里の顔をまともに見られなかった気もするんすわ。  記憶がないせいなのか、他のなにかが理由か。  頭の中がすげぇぐるぐるしてるっす。 「それは」  それでも、どうにか反論しようとした。  言葉がまとまったワケではないけれど、隼也に何か言わなければ気が済まなかった。 「それは陸斗くんが悪いワケでも、柚陽(ゆずひ)のせいでもない。確かに柚陽のことは許せないし、陸斗くんは騙されていたにしても、海里を信じずに傷つけた。それも簡単には許せないけど、今海里を傷つけたのは、紗夏(さな)くんを傷つけたのは、他でもない、キミだよ、隼也くん」  だけどどうにか言葉にしようとする陸斗の横から、穏やかだけど、怒りに満ちた波流希(はるき)の声が聞こえた。  まなざしは穏やかだけど、とても冷たい目をしてる。怖い。海里を傷つけてしまった時、彼に向けられた目が思い出されて、自分に向けられたワケでもないのに大きく震える。  それを正面から向けられた隼也の方は、なんとも思っていないようで飄々としていたけど。

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