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適当に、仕事が決まればそれでいい。 「と言うか、何で実家に引っ越すのを知ってるんだ?……最初から家族がいなくなったのも知ってた。何でだ?」 運ばれて来たサラダうどんをつつきながら音無に聞けば、「なんとなく、わかるんですよ」とはぐらかされた。 何となくで人のお家事情が分かるのはまずくないだろうか。とは思ったが、話す気がないなら仕方ないし、いないのは事実だからいいかとため息を吐いた。 「ん、意外と美味しいですね」 「ーーーそうだな」 正直、ドレッシングがかかっていようと、どれだけ濃い味付けだろうと、わからなくなっているから感想がつけがたい。 「美景さん、意外と顔に出てますよ」 「は、なに」 「ね、美景さん。俺、小さい頃から人の子と遊んでみたかったんです。感覚が違うから、俺たちと人の常識は測れないから、興味があったんですよね。ただ、俺は「こう」なので、怖がられて逃げられてしまうか、媚びてくるのか二つに一つしかいなくて」 かつん、と音無が持っていた箸を皿において首を傾げた。 「美景さんは少し違いますね。媚びないし、逃げなかった」 「ーーーー音無は、逃げたら有無を言わさず捕まえそうだったからな。穏便に済ませた方がいいだろう。とりあえず、人の口に指を突っ込むのはやめた方がいい。あれは怖いからな」 「名前を呼ばれないのは嫌いなんですよ。呼んでくれないなら、無駄な機能なんです。舌を引っこ抜いてしまった方がいい」 「いや、その思考が怖い」 俺がそう言うと、音無はそうですか?とにこりと笑った。 いや違う、笑い事じゃない。しかも躊躇なく実行しそうなのが更に怖い。 「舌を引っこ抜いたら、人は死ぬぞ」 「あぁ、そうでしたっけ」 あっけらかんと答え、音無は少しばかり困りますねと肩をすくめた。思考回路が全く噛み合っていない。 音無の返答は、まるで人が死ぬことを何とも思っていないような、そんな口ぶりだ。それとも、殺す事を躊躇いはしないのか。どちらにせよ、俺とは考え方も感じ方も違うのだろう。 「…食べ終わったら俺は帰るぞ。週末で引越しの準備をあらかた終わらせたい」 「なら、明日も会いに行きますね」 「ーーーーーなんで」 思わぬ言葉に素っ頓狂な声が出た。箸を持ち直した音無はふふっと笑い、俺が会いたいのでと笑う。だから、一々ゾッとする。なにを考えているのかわからないし、下手な事を言えば瞬間に命を落としそうだ。 なんでこの歳でそんな命の綱渡りみたいな経験をしなくていけないんだ。そう思いながら、目の前のサラダうどんを口に運ぶ。 やっぱり、味はしなかった。

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