10 / 23

10

何度同じ問いかけをされようと、何度だって同じような答えしか返せない。昔の自分など等に忘れているし、なによりも、無駄だと思う。過去を振り返っても失くしたものは戻りはしない。 両親がなくなり、葬式やその他の手続きを済ませる間、何かを考える余裕も、気力も底をついていた。ガス欠状態の思考回路を抱えたままで、もはやこうして毎日を生きている事すら億劫だ。 だけど、自ら命を絶つ勇気もない。 生きたいかと言われればそうでもないが、死にたいかと問われたら、答えは否だ。見つかりもしない「何か」をずっと探している。 視るのは悪夢だけだ。 「ーーーー音無」 「おはようございます、美景さん」 「添い寝はやめろと言っただろう」 朝、目が覚めたら隣で音無が寝そべりながら笑いかけてくる。ここに来てから毎日この状態だ。もはや意味がわからない。 「今日はうなされてませんでしたね」 「何のために部屋が別々だと思ってるんだ」 「美景さん、俺、少し行きたい所があるんです」 「話を聞け」 ぐったりしながら体を起こし、背伸びをしてから音無の髪をわしゃわしゃと乱してベッドをおりた。 「あ、美景さんまた髪ぐしゃぐしゃにしましたね」 「無駄に綺麗なのが腹立つんだよ、音無は」 「美景さん、後で出かけましょうね」 「ーーーわかったから、朝飯食うぞ」 適当に朝食を済まし、ラフな格好に着替えてから音無に行き先を聞いても「秘密です」と笑うだけだった。 「青空なのはいいですね。俺がいた山は陰ばかりだったので」 「………ずいぶん歩いたが、疲れないのか?」 家を出てから数時間経つが、歩き通しでどこに行くのかもわからない中、少しばかり疲れたと足を止めると音無がクスリと笑って頭を撫でて来た。 「美景さんは人の子ですから、この距離は疲れてしまいますね」 「音無の体力がおかしいんだ」 「そうですか?」 「…で、そろそろどこに向かっているのか教えてくれないか」 はぁ、とため息混じりにたずねれば、音無がそうですねと笑う。 「美景さん、神様は信じますか?」 また、突拍子も無いことを言う。 こういう音無には少し慣れた気がする。 「神様、か。信じるような歳でも無いが、いないとは言えないだろう。現に音無が目の前にいるからな」 人にしか見えない、人では無い「ヒト」だ。 ややこしいことに、それは意外としっくりくる。この目立つ容姿をしていて、普通の「人」だと言われると違和感がある。 「…美景さんのその考え方は嫌いじゃありませんけど、諦めが大きいのが好きじゃないです」 「…………考えるのが面倒なだけだ。別に諦めてるわけじゃない」 「同じ、ですよ。美景さんは、ただ思考を放棄して流れに身を任せてるだけです」 「ーーーーーーあのな、」 「貴方に刻んだ印は、一生無くなりません」 完全に俺に向き直った音無は、うなじに手を伸ばし、指先でなぞる。 「貴方は、どう足掻いても俺のものです」 綺麗に笑う、怖いくらいに。 音無の顔に陰がかかり、その中で金色の目が光る。 「他の誰かに渡す気も、貴方を手放す気もありません」 うなじを撫でた手が、頬に触れて親指が目尻をさする。 「前にも言いましたけど、早く俺を好きになって下さいね」 「……まるで音無は俺が好きみたいな言い方だな」 「え、当たり前じゃないですか」

ともだちにシェアしよう!