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「人の子、お前は椎名を知っているのか?」 仮面の人物、青天目さん、がそう言葉を吐いた。 俺は思わぬ人物の名前に一瞬言葉に詰まったが、そのまま頷いた。俺が知っている「椎名」という人物は、一人しかいない。 「あれは、元気か?」 「え?あぁ、まぁ、元気だと…思いますけど」 「そうか。それならば仕方がない。音無に刀を返そう」 ため息混じりに立ち上がると、どこから取り出したのか、刃が剥き出しの刀を音無に手渡した。危ない事この上ない。 「ありがとうございます」 椎名さんとこの人は知り合いなのか、と場違いなことを考えながら腕を組み、ふと見えた青天目さんの右手の小指に、見たことがある模様があった。 赤い模様だ。 「それ…」 「何だ人の子。何かあるのか」 「いえ、その、模様が…」 「ーーーあぁ、これか。あれの小指にも同じものが有ったろう」 確かに、椎名さんの小指には同じ模様があった、気がする。そこまでまじまじと見たことはないけれど。 「美景さん、帰りましょう」 音無に手を引かれ、短く声をあげた。さっきまで手にしていたはずの剥き身の刀はもう見当たらない。恐らく音無相手に常識は通用しないだろうから「銃刀法違反だ」なんて言っても意味はないだろう。 背後から早く去れと青天目さんが低い声で言うのが聞こえた。 「さっきの刀は何だったんだ」 家に帰り、さすがに歩き疲れたと今の机に突っ伏しながらそう聞けば、隣に座った音無が頭を撫でながらクスリと笑った。 「護身用です。貴方と一緒にいるには必要なので」 「意味がわからない…」 「そのうちわかります」 そう答えた音無は、美景さんは気にしないでくださいと言葉を続けた。 あんな目の前で剥き身の刀を目にして気にしない方がおかしいだろう。大体にして、音無が何を考えているのかさっぱりだし、長く歩き続けたせいでひどく眠い。 徐々に落ちてくる瞼に、俺は静かに眠りについた。 両親が死んだ時、自分の中が空っぽになったのは分かっていた。仕事にも集中出来ないし、だからと言ってやらなければいけない手続きは多いし。 両親の棺にも、正直近づけなかった。現実を受け入れたくなくて、けれどのしかかる重みは現実でしかなくて。 生きる希望も、未来にあった目標も、全部両親と一緒に灰になって消えてしまったんだろう。 毎日同じことを考えては、ため息しか出ない。生きる為に働かなくてはいけないのに、どうしても気力が湧かず、新しい職だって手付かずだ。 これをきっと、不安と言うのだろう。 このまま、生きていていいのか、と言う不安だ。

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