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「えー…、本当に行くんですか?俺、斬りかかりますからね?大丈夫ですか?嫌いになったりしません?俺美景さんに嫌われたら貴方と心中しますからね」
「発想が怖い」
「……でも他ならぬ美景さんの為なので、殺さないように頑張ります」
いや、だから発想が怖い。
なんで目が合った瞬間に斬りかかるような相手がこの世にいるのか。人間じゃないとそう言うのは当たり前なのだろうか。
音無の事は、知らない事の方が多い。
「………連絡は、一応俺からしておきます」
「あぁ。うん。頼んだ」
電話の使い方とか、分かるのだろうか。一緒に暮らしてはいるが、電気系統の機械を使っているのは見たことがない。むしろいくつか壊している。
買い換える金はない訳でないが、新しい職が決まるまでは出来うる限り節約をしたい。
「炊飯器は…鍋があるからいいとして…」
ぶつぶつと考えながらふとニュースが流れているテレビに目を向けた。
最近、やたらと事件が増えた気がする。ニュース番組では、最近起こった誘拐事件を取り上げていた。
「美景さん」
「ん?」
「明日来てくださいって」
「……え、音無ちゃんと電話使えたのか」
「難しいのは力加減なんですってば。だからとりあえず、明日、行きましょう。それまでは俺を構ってください」
子供か。
と言う言葉を飲み込んで、とりあえず時間を確認すれば、午後の2時だった。
昼ご飯はうどんを食べたから、夜は普通に食べよう。その為には買い物に行かなくていけない、が、音無を連れ歩くのは本当に疲れる。
真面目に考えても、綺麗すぎる顔をしているからどこに行っても目が集まる。しかも外でも最近の音無は馴れ馴れしく、そして無駄に近い。
「……あ、そうだ美景さん」
「なんだ」
「これ、持っててください」
手を掴まれ、手のひらにコロンと転がったそれは、
「……指輪?」
はっきりとした青色の、小さな指輪だった。
「お守りです。いつも持っていてください」
「なんかよく分からないが、わかった」
「ありがとうございます」
綺麗な青色だ。空よりも、多分海よりも濃い。けれど真っ青とも言い難い。
「……………綺麗な色だな」
「俺もそう思います」
翌日、朝。
歩いて三分程の距離にあるスーパーに向かっていた。朝の六時だ。人もあまりおらず、音無もいないから視線が集まる事もない。
二十四時間開店しているスーパーは有り難い。時間を考えずに済むし、とても安いから家計的にも大助かりだ。
「………牛乳と、食パン」
卵はあったはず。そう思い出しながら他にも諸々買い、スーパーを出た。
「ーーーーーーー誰」
普通に買い物をして、スーパーを出ただけだ。家まで三分程度の近さ。目と鼻の先だと言うのに、自動ドアから外に出て、駐車場を出ようとした時、横から喉元に銀色が当てられた。
「おはよう。小鳥遊美景さん」
喉元に触れるか触れないかの位置に光る銀色が刀であると気がつくのと、その持ち主が赤いパーカーのフードを目深くかぶり、顔が見えないと気がつくのはほぼ同時だったような気がする。
「お前が一人になってくれるのを、待ってたんだ」
「…は?」
「この間は殺し損ねてしまったから」
「ーーーー殺し…?」
「お前の首を、あの化け物の前に出したらどんな顔をするかな」
撫でるように刀がひたりと肌に添う。ヒヤリとした感覚と、すぐに浮かんだのは音無だった。
「っ、ぉ、となし」
死にたくないと、思ったから。
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