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俺の質問には答えないまま、俺の手を引いて歩き出した音無に首を傾げた。 音無はたまに不安そうな顔をする。けれど何に対して不安なのか聞いても答えないから俺にはわからない。 そんな音無を見ていると、少しだけ俺も不安になったりする。 だけど、 「ーーーー…音無」 「…はい」 「俺、ちゃんとお前が好きだからな」 ぎゅっと繋がった手を握り返してそういえば、音無が足を止めた。 「………美景さん」 「ん?」 「言ってないことが、あるんです」 小さくつぶやいた音無が「今日は新月ですね」と言葉を続けて、また歩き出す。 言ってないことって、そんな事あって当然だろう。そう思うけれど、言葉にはしなかった。 家に帰り着いて、時間を確認すると六時。夕方といえどだいぶ明るくなったなと思う。昼が長くなってきたと言う事は、そろそろ夏だ。そもそも梅雨入りもまだだけれど。 仏間に行って、手を合わせてから何を作ろうかなとキッチンに向かう。 冷蔵庫の中身もそろそろ使い切らないといけないなと思いながら扉を開いた。 「なぁ音無ーーー、あれ?音無?」 居間にいた筈の音無の姿が見えず、冷蔵庫を占めてから居間を出た。首を傾げながら廊下に出ると、僅かに声が聞こえて二階への階段を登る。 「音無…?」 「…………み、かげさん」 上がってすぐ、廊下の床に音無が倒れていた。 赤い筈の髪が、銀色に光っていて。 少し苦しそうに振り向いたその顔には薄っすらと鱗が浮かび上がっている。顔だけじゃなく、手にも。 「音無」 「ごめんなさい、少し、抑えられなく、て」 切れ切れに話す音無は本当に苦しそうに拳を握っている。俺は音無のとなりに膝をつくと、 「触っても平気か?」とたずねた。 「ーーー…だい、じょうぶです、よ。すぐにおさまります、から」 「無理するな。俺しかいないから抑える必要なんてないだろ」 「…貴方を、傷つけたくないので」 「は?」 音無の頬に手を伸ばし、触れながら長く息を吐いた。ざらりとした肌触りに、いつもと違う感触を確かめ、真っ直ぐに音無を見る。 「…言ってなかった事は、これか?」 「前回は、無理やりおさえ、たので……言うのが、少しだけ、怖かった、んです」 「随分と苦しそうだが」 「はは、たしかに……でもーーー」 頬に触れていた俺の手を掴み、音無が体を起こした。そのまま抱き込むように胸元に引き寄せられて、体勢が崩れ床に倒れる。 掴まれた左手を押さえ込むように絡め取られた。 「い、た……。急に引っ張るな。驚くだろう」 「だから、傷つけたくないって、言ったでしょう?」 「は?」 覆いかぶさってきた音無に、右手も絡め取られ少しだけ息を飲んだ。 「……好きです。愛してます。美景さん」 「おと、な」 名前を呼ぶ前に塞がれた唇に目を見開いた。間近で見る音無の瞳が酷く美しくて、かなしそうで。 「…っ、」 吐息もことばものみこまれ、少し苦しくて目を閉じた。 「ーーーー…開けてください、美景さん」 ゆるりと右手の手首を撫でられて、ぞわりと体が揺れる。唇が触れ合うほど近くにいるのに、このまま音無を見たら魅入られてしまいそうだ。 「開けて、美景」 「っ、それ、ずるくないか…」 この状況で、それは、流石に。 こつりと額があたり、閉じていた瞼を開けると目の前に綺麗な金色の瞳があって息をのんだ。 確かめるようにゆっくりと触れた唇に、じわじわと顔が熱くなる。 「俺を知ってください。全部、俺を貴方に捧げます」 「…っ、おさえ、って、そっち」 「抑える必要なんてないって言ったのは、美景さんですよ」

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