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第7話
「広瀬」
急に声をかけられてビックリして飛び起きた。うたた寝をしてしまっていたらしい。
目を開けると、東城がスーパーのビニール袋を片手に立っていた。
「あ」
「お前、なんだってこんなとこで寝てんだよ。探したじゃないか」と彼は言った。「靴が玄関にあるし、カバンもリビングに置きっぱなしで、どこ行ったかと心配したぞ」
手を伸ばされて髪をぐちゃぐちゃとかきまぜられた。
「東城さんこそ、買い物?」
「ああ。ワインを開けようとして力入れたら、栓抜きが折れたんだ。予備もないから、買いに行ってた」
そう言いながらスーパーの袋からコルク抜きを取り出して見せてくれた。
広瀬はうなずいた。単に買い物行ってただけなのか。まぎらわしい。勝手に心配したのは自分だけど。
東城は、リクライニングチェアの脇に座り、広瀬の顔を覗き込んでくる。
「なんでここで寝てたんだ?」
「部屋のドアが開いてたんです」
「それで?」
「灯りついてたから、いるのかと、思って」
「いないのすぐわかるだろう」
「疲れてて」と広瀬は言った。そうだ、まだ、すごく疲れている。
そう言ったら東城が優しく微笑んだ。それから軽くキスされた。「可愛いな。このリクライニング、気持ちよかっただろ」
東城がじわじわと体重をかけてくる。頑丈なリクライニングチェアが少しだけ沈んだ。
もう一度キスされそうになり、避けたら唇の端に彼の唇があたった。
「疲れてたんです」広瀬は再度言いリクライニングチェアから身体を起こし、立ち上がった。
「髪の毛、跳ねてる」
「さっき触るから」と広瀬は答え、直そうとして手を伸ばし、自分の手にネクタイが握られていることに気づいた。
東城の表情がニヤニヤ笑いにかわっている。
「床に落ちてました」そう言ってネクタイを東城に返した。
彼は、受け取ると「片付けとくよ」とだけ答えた。
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