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第9話
広瀬は話を変えた。「竜崎さんは、どうしてクラブ森潟に?」
「ああ。あそこで活動している奴がいるってことで、下調べに行ったんだ。北アジア系の小ぎれいな男があのクラブで活動してるらしい。最近、どこかの研究者のエロじじいをあの店で接待して、企業の開発情報を狙ってるって。今日は竜崎さんが行ってる。チーム内で交替で森潟に行ってるんだ。これは小森北署の案件とは全く関係ない話だから、むこうでの会話には気をつけろよ」
それから、身を乗り出してくる。「お前、あの森潟って店で、買春やってるのには気づいたよな」
広瀬はうなずいた。
「あの店、女は雇ってない。提携先からいい女を確保しやすいからな。男も提携先も使って斡旋してるが、上玉を一定数そろえられる提携先が少ないから、自前でもそろえてる。長谷川がお前を森潟にわりふったのはそのことをよく知ってるからだ。お前、明日も、クラブ森潟に行くつもりなのか?」
「そう指示されていますから」
東城は首を横に振った。
「行かない方がいいだろう。高田さんに説明して、大井戸署に戻してもらえ」
「それは、できません」まだ、ちょっとした接触以外には何も起こっていない。そもそも、無理やり売春させられそうになることはない。「捜査は捜査ですから」
東城は、じっと広瀬を見ている。「あの店で、もう、何かあったのか?」
「え?」
「やっぱりだな。何されたんだ?」
「大したことでは」広瀬は簡単にはしょって今日の店の幹部とカジュアル男とのやり取りを東城に説明した。
東城は明らかに不機嫌になった。「そいつらお前のこと接客担当と思ってんだろ。やっぱり、行くなよ。なんで捜査だからってんなとこ行かなきゃらならないんだ。もっと別な奴が行けばいいだろ」
そう言われるのは予想がついていた。
「用心していますし、俺の仕事は、雑用なので、客とは接触しません。急に予定を変更することはできません。明日は、森潟に行きます」
「だけど、向こうはお前をただの雑用係とは思ってないんだろう。お前、自分の外見がどう見えるのか、よくわかってないんじゃないか」
「外見って」鏡は毎日見ているのだから十分知っている。「知らない人からジロジロみられたり、声をかけられたりするのは慣れてます」上手に避けることもしているのだ。
「あー。そうじゃないだろ」と東城はため息交じりに言った。「その程度じゃないってこと」
その後何度か東城は広瀬を引き留めることを言ったが、広瀬は聞かなかった。
「一回決めたら言うこと聞かない奴だな。わかったよ。だけど、何かあればすぐに俺に言えよ」と東城は言った。
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