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第11話

広瀬は、部屋の中に設置された冷蔵庫をあける。水やソフトドリンクを入れていった。 そこで、部屋の奥から悲鳴のような声が上がるのを聞いた。思わず振り返ってしまう。 そこで見えた光景に固まってしまった。 男たちがベッドを取り囲み、覗き込むようにしていた。 悲鳴に似た声は上がり続けている。 間接照明でぼんやりしたベッドの上で、裸体の男がTシャツ姿の屈強な男に組み敷かれている。それを、複数の男が見ているのだ。 レイプしているのだろうか。もし、そうなら、助けなければ。周囲を見回し、武器になりそうなものを探す。水の入ったボトルは役に立ちそうだ。 ボトルの首をつかんで、持ち上げる。問題は、これだけの人数の中、どうやって助け出すか、だ。この程度の武器では、返り討ちにあるだけだ。だけど、急がないと。どうしようか。 そんなことを考えていたら、途中で、声は、悲鳴のような声から喘ぎ声に変わった。裸の男の腕が自分を抱いている男の肩に回ったのが見える。Tシャツの袖から出ている腕ははちきれそうな筋肉で日焼けサロンを利用してるのだろう、やけに黒い。 裸の男は白い肌で、指先から肩にかけてトカゲが刺青されている。うねうねと尻尾から頭までうろこに覆われたトカゲが、嬌声とともに蠢いている。最初に広瀬に仕事の説明をしてくれた童顔のスタッフの刺青だ。 彼の声は、「もっと」とか、「いい」とか、相手の男にねだっている。 えっと、 これ、ショーなんだろうか。 こういった性行為を見せる場所があるのは知っている。大井戸署に異動になる前に勤めていた北池署では、もっと、えげつない場末の風俗店での摘発に帯同したこともある。だから、驚いたりはしない。 いや、自分をごまかしてもしょうがないか。 びっくりした。 なんだ、あれ。 あんなことしてる。うわ。すごいな。 広瀬は武器として持った水のボトルを床に音がしないようにおろした。 あの喘ぎ声は演出なんだろうか。大きい声だ。意識してきかせようってしなきゃ、あんなに大きな声でないだろう。姿勢も、周囲の人間に性器がよく見えるようにしてるみたいだし。 腕に描かれたトカゲの刺青がTシャツ男の筋肉に触れている。 気が付かなかったが、もう一人ベッドにいるようだ。 うわあ。3人だったんだ、と広瀬は思った。 広瀬は、目をそらし、冷蔵庫に飲み物をセットする仕事に戻った。 ショーのためとは言え、3人で、人前でやってる。見てる方も複数いて、お互いの表情がわかる明るさの中にいる。 舌なめずりして見てるの、他の人に見られて平気なんだ。 人の趣味嗜好は様々だから、誰も、広瀬にとやかく言われたくはないだろうけど。 トカゲの刺青のスタッフは、あれはあれでプロなんだ。それに、人に見られる方が興奮するってこともあるんだろうし。 自分は、東城以外の誰かに触れられたり、他の人に性行為を見られたいとも、人のを見たいともは思ったことがないけど。 人それぞれだから、それぞれ、それぞれ、と何度も自分に言い、あせらないようにゆっくりした動作で冷蔵庫の扉をしめた。 それから、部屋を静かに出た。 空調は冷えているのにじっとりと汗が身体からでていた。

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