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第12話
数時間後、他の作業をしていると、また、4階に呼ばれた。先ほどショーをしていた部屋で今度は掃除をおおせつかったのだ。
そういえば、さっき、あのベッドの周りにいた男たちの顔をちゃんと見ていないことを思い出した。
あまりに突然のことで驚きすぎて、小森北署の仕事のことをすっかり忘れていたのだ。
もう客はいないだろうな。だけど、あの中に探していた男がいたかもしれない。もう一度チャンスがあれば客たちの顔もしっかり見るんだけど。
そう思いながら広瀬は掃除道具をもって部屋に入った。
部屋の奥には、まだ人の気配があった。もしかして、何人かはまだ残っているのか。
広瀬は、掃除道具を入り口付近に置き、中に入って行く。
ベッドの脇のテーブルに幹部のスーツ男と色黒の大柄な男がいた。
打ち合わせか何かしているようだ。色黒の男はもしかして、さっきベッドにいてショーをしていた男だろうか。
二人は広瀬の方に顔を向けてきた。じっと見られている。
その不穏な視線に緊張し、脈拍があがった。
「あの、部屋を掃除するよう言われましたので」ともごもご説明した。
幹部の男は、広瀬を見てうなずいた。
「ああ、お前か。こっちにこい」
「は?」
「こっちに」
「いや、あの、なんでしょうか?掃除を」
そう言いながら、後ずさりした。
面倒なことになりそうだ。とりあえず逃げよう。
「掃除は後でいい。他の者を呼ぶ」
なんだそれ。
色黒のガタイのでかい男が立ち上がり、広瀬の行く手を阻んだ。
「ここを掃除する必要がないのなら、別な部屋に行きます」と広瀬は言った。
男に手を伸ばされたので、広瀬は避けた。男は広瀬よりはるかに背が高い。
「きれいな男だろう」と幹部は言った。「年齢よりかなり若く見える」
ガタイのいい男はうなずいている。彼は、広瀬の顔を覗き込んでくる。「それに気が強そうだ。そそる顔だな」と言った。「お客さんたちに気に入られてたんまり金を払ってもらえそうだな。どうだ?」
最後の「どうだ?」は広瀬への質問のようだった。
なにが「どうだ」だっていうんだ、と広瀬は思った。「なんですか?」
幹部はニヤリと笑った。
「とぼけなくてもいいだろう。さっき、この部屋であったことは見ていたはずだ」
ガタイのいい男が再び自分に手を伸ばし、頬に触れようとしてくる。
「やめてください」
「おっと。そう毛を逆立てなくてもいいだろ」とガタイのいい男は言った。「これから、楽しませてやるから」
「は?」
広瀬は、飛び退ろうとした。だが、ガタイのいい男の手が追いかけてくる。男は腕も長く、すぐにからめとられてしまった。
広瀬は、もがいた。
「なにを!」
「恥ずかしがらなくてもいい。さっき見ていて、興奮してただろう。仕事をやめて見入ってたし、手が震えていた」と幹部はからかうようにいった。「すぐにわかった。お前は、人前で、いやらしい恰好をすると興奮するたちだろう」
何言ってんだ、こいつ。否定の言葉や罵詈雑言が頭の中で洪水のようにあふれてくる。だが、いざと言うときに限って、口からは思うように言葉がでてこないものだ。
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