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第16話
その後、広瀬は二人とともに4階から駐車場に直通のエレベーターにのり、クラブ森潟を出て、竜崎が運転する車に乗り込んだ。
車の中で東城は怒りまくっていた。
広瀬に乱暴した2人の男、広瀬をクラブに送り込んだ小森北署の長谷川警部補にどう落とし前をつけさせるのか、といったことを話していた。
竜崎は、そんな東城を静かな声でなだめていた。こんな風に怒る彼に慣れているのだろう。
広瀬は、後部座席に座り背もたれに身体を預けたまま、二人の会話を聞いていた。全身の力が入らずぐったりしてしまう。助かったことを感じながら、心配にもなった。
どうやって広瀬が襲われそうになったのを二人が知ったのかはわからないが、あんな風に幹部の男を倒したりしたら、この二人の捜査はどうなるのだろう。
それに、自分は自分で、これから、小森北署にあったことを報告しなければならない。捜査がだいなしになったこととその理由を。だが、何を話したらよいのか。
車はクラブ森潟から離れたコインパーキングの前で停まった。どうやらもう一台車を停めていたようだ。
広瀬が目を開けると、バックミラー越しに竜崎と目が合った。
竜崎が、小さい声で東城に話している。広瀬を家に送るように言っているらしい。
それから、振り返り、広瀬に言う。
「今日は家に帰るといい。小森北署と大井戸署への報告は今日はしなくていい」
「ですが」そう言うわけにもいかないだろう。
竜崎は穏やかな安心できる表情をしている。
「僕から根回ししておく。心配しなくていい」
「竜崎さんの案件は」どうなるんだろうか。自分が全部台無しにしてしまった。
「それも気にしなくていい。昨日くらいであらかた情報は集めていたから」竜崎はなだめるような口調だった。そして、「君は、今日は家に帰って休息しなければだめだ」ときっぱりと言った。
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