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第18話
ベッドの上でまんじりともせずにいると、ドアが小さな音を立てて開いた。
意外なことに東城が帰ってきたのだ。
彼は、ベッドの脇に立ち、広瀬を見下していた。
広瀬が目を開けて彼を見ると、手を伸ばして頬を撫でた。手が唇の端に触れる。殴られて血が出たところだ。鏡を見たら痕にはなっていなかった。
彼の手に頬をこすりつけるようにした。手が温かい。
東城は、静かにベッドに入ってきた。
「心細い思いさせてごめんな」と彼は耳にささやいてきた。
別に心細くなんかなかったと言おうと思ったが、嘘になるのでやめた。
広瀬は、ベッドの上を動くと、横たわる彼の上に身体を重ねた。仰向けに寝る東城の身体の上にうつぶせになり、全身で彼にもたれかかった。
胸に頭をつけて目を閉じる。
東城は広瀬の頭を大きな手でなでた。首から背中にかけてもほぐすように行き来する。
「もう、大丈夫だから」と彼は言った。静かな優しい声だった。先ほどの車中の怒りはどこかに押し込めてきたのだろう。
彼は繰り返し慰めるように大丈夫とささやいた。
身体の中の氷は少しずつ溶けだしたが、まだ、凍ったままだ。
背骨を指がなぞり、こわばっていた背中の肩甲骨を緩めてくれる。東城は根気強く広瀬のこわばりを解いてくれた。
「お前に何かあったら、すぐに助けに行くから。だから、お前は自分がやるべきだと思ったことは誰に反対されても、それをやっていいんだ」と彼は言った。「何も心配しなくていい。今日だってちょっと遅かったけど、俺が助けてやっただろう。お前は、心配しないで、自分がやるべきことをやれよ」
しばらくすると、身体が解けてきた。
東城の体温が伝わってきて、冷え切った身体に体温が戻ってくる。彼の規則正しい呼吸も心音も、広瀬の身体を整えた。指先にやっと血が通ってくる。
彼の呼吸に自分の呼吸のリズムを合わせて、頭を、身体をなでられながら、広瀬は眠りに落ちた。
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