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第27話

翌日の夜、広瀬が帰ると、東城が出迎えてくれた。 「昨日はありがとう。お母さんすごく喜んでた。また、よろしくってさ」 「そうですか」と広瀬はうなずいた。 東城の母親の提案には最初は驚かされたが、タイ料理は何度思い出しても笑顔になりそうなくらいおいしかったし、よく考えれば広瀬にとってはかなり得な取引だった。 「それで、お礼ってわけじゃないんだけど、お前にプレゼントがある」と東城は言った。 「なんですか?」 東城は答えず、こっちこっちと言って広瀬を先導した。二階にあがり、広瀬の部屋のドアをあける。 そこには、大きなリクライニングチェアが置いてあった。 「俺のと同じタイプのだ。俺のより新型だから、ちょっと機能が向上してるかな」 広瀬は、革張りの大きな黒いリクライニングチェアを見下した。 「どうして、これを?」 「お前、この前俺の部屋で使ってただろ。気持ちよさそうにしてた。それに、最近、寝るとき俺の上に乗ってくるだろ」 確かに、この前、東城の上に乗って寝たら気持ちよくてよく眠れた。以来、なんとなく上に乗って寝ていたのだ。重くて嫌だったのだろうか。 東城は言葉を続ける。 「それで気づいたんだが、お前は俺が不足しているんだ」 「不足」 「そう。お前の日常生活で、俺が圧倒的に足りないんだ」と東城は威張って言っている。 「俺、いつも忙しいし、朝も夜もいないこと多いだろ。だから、お前は、俺がいると少しでもくっついていたくなる。それは、もちろんそれでいいんだ。むしろ、もっとくっついて欲しいくらいだ。だけど、俺がいない時、お前が一人さみしく寝ているのは身体によくない。だから、これ」と彼はリクライニングチェアを右手で示す。「なんなら、俺のネクタイもおまけで提供してもいいぞ」 広瀬はリクライニングチェアを大仰に指し示す東城の右手を見た。 冗談なのか、嫌がらせなのか。 いや、この表情、この手つきや満足そうな顔は本気のようだ。 どんなに好きでも、一緒に暮らしてても、何度身体を合わせても、その人の価値観や感性って理解できないことがあるんだな、と広瀬は思った。 うながされるままに広瀬はリクライニングチェアに座った。 背もたれの角度を丁度いいところに調整する。椅子はしっかりと自分を支えてくれた。後ろから抱き留められているようだ。 東城は笑顔でリクライニングチェアに身体を預けている自分を見ている。

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