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第28話
ふと思い出して彼に聞いた。
「そういえば、マッサージチェアはどうなったんですか?」前に買うと言っていたはずだ。
「マッサージチェアは買うのやめた」
どうしてだろう。欲しがっていたのに。
「福岡さんが王様気分になれるっていってたからうらやましかったんだけどな、最近、自慢しなくなったと思ったら、王様気分どころじゃなくなったらしいんだ」と言う。
「いつも通り、深夜に気分よく使ってたら、急に強さがマックスになったんだって。何の操作もしてないのにだ。目を閉じてゆっくり今日もマッサージ、ってリラックスしてたら、変な音がして、腕とか足とかギリギリ締め付けられて動けなくなって、首絞められたんだって。あやうくマッサージチェアに殺されかけるところだったって、青い顔してた」
東城は思い出し笑いをしている。
「怖いだろ。王様気分でこきつかってた召使が、一斉に反乱を起こしてきたみたいだったってさ。福岡さんを恨んでいる人間の怨念が機械に乗り移ったんだろうな。酒飲んで夜中に寝て、寝ぼけてただけだろっていう説もあるんだけど。俺は、その話聞いて、欲しくなくなった。機械の召使に殺されちゃ死んでも死にきれないからな」
それから、リクライニングに寝そべる広瀬の頬を指でなでた。
「それと、よく考えたら、機械の召使にマッサージしてもらうより、恋人をマッサージする方が好きだ」と彼は言った。「お前を王様みたいな気分にさせてやるよ」
「本当に?」
「もちろん」
「じゃあ」
広瀬は王様のように右手の甲を東城に差し出した。
彼がその手をとり片膝をついて指先に接吻した。
「御意のままに」
広瀬の部屋には大きなリクライニングチェアがある。
黒い革張りのチェアで、身体を支えるクッション部分は分厚く安定感がある。
大きなそれは広瀬の部屋の中で存在感を示している。
部屋に入ると何で座らないんだよと言われているようだ。心なしか、東城がどっかりと部屋にいるような気がする。
リクライニングチェアが要求してくるので広瀬はそこに座る。
最初は申し訳程度だったが、最近は慣れてきた。
時々うたた寝をしていると東城がきて起こしたり、毛布を掛けてくれたりしている。彼が言っていたようにマッサージをしてくれる時もある。
広瀬は、安心してリクライニングチェアに身体を預け、時間を過ごす。彼と一緒の時のように。
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