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もう一つのリクライニング 5

ある日、東城と外出し、珍しく出先で早くに仕事が終わった。 どちらが誘うでもなく、竜崎は東城とカジュアルな洋食店に立ち寄った。 気温が高い日だったので、冷えたビールにはうってつけだった。 オープンテラスに案内され、待ちゆく人を眺めながら、竜崎は東城のとりとめもない話を聞いていた。 東城はスーツの上着を脱いで白いワイシャツの袖を軽くまくっていた。 フォークとナイフを使って運ばれてきた肉を大雑把に切り分け、頬張っている。 竜崎はどちらかというと小食なので、サラダや魚介をつつく程度で後はビールをチビチビ飲んだ。 東城の腕は筋肉が張り詰めていて、血管がういている。 がっしりして体格のいい彼が食事をしている姿を改めてみていると、心臓が早く打つ。 この大きな手で、広瀬を抱いているんだ、とこんな場所でしてはいけない想像が頭の中で湧き上がる。 食事の油が唇を濡らしている。ぬらっとした口が、さらに想像を広げてしまう。 無表情で感情がなさそうな広瀬も、彼の前では、喘いだり声をあげたりするのだろうか。 東城は、濡れた口をナプキンを引き寄せて拭き、フォークをサラダに入っていた大きめのマッシュルームに突き立てた。 竜崎は、ビールを口に運び、自分の表情が東城にわからないようにした。 こんな感情は、いつまで続くのだろうか。自分でもわからない。 目をそらして、歩道を見た。 しばらくしていると、むこうからどこかで見た顔が女性連れで歩いてくる、と気づいた。二人ともスーツ姿で仕事中と思われた。 それが、悠太だとわかるのはかなり近くまで彼が来た時だった。 彼の視線が、自分に向かっていた。 むこうも気づいたのだ。 知らん顔する、と思った。 彼には彼の社会生活がある。お互いの社会生活に踏み込まないのは当然だと竜崎は思っていた。 ところが、悠太は足を止めた。 はっきりと竜崎を見ていることを態度で示した。 それから、彼の視線は、東城を認めた。彼は笑顔になった。 「偶然だなあ」と悠太は話しかけてきた。 東城は顔をあげ、悠太を見た。 誰だろうと怪訝そうにしている。 悠太の隣にいる女も、急に立ち止まり知らない男に話しかける悠太にとまどっている。 「お知り合いですか?」と隣に立つ女が悠太に小声で聞いていた。 悠太はうなずいた。 東城も竜崎に、こいつは誰だ?という視線を送ってきている。 「磯貝です」と悠太はあいさつした。「この先のビルで働いてるんですよ。竜崎さんとは、なんていうか、飲み友達というか趣味の友人」と悠太は平然と言った。 竜崎の「友人」ときいて東城はすぐにいつも通り人懐っこそうな笑顔を浮かべた。警戒心がなくなる。 悠太も笑顔でテーブルの上を見る。「美味しそうですね。この店、この前できたばっかで」 「もし、よければ、どうぞ」と東城は言い、テーブルを示した。「まだ、仕事中ですか?」 「いえいえ、終わって、会社に帰るところなんですけど、だけど、もう、戻らなくてもいいかな。楽しそうだし」 悠太の連れの女は会社の同僚のようだった。私は社に戻ります、と彼女は言って去って行った。 この酒の場に加わりたそうではあったが、忙しかったのだろう。残念そうに立ち去った。

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