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もう一つのリクライニング 6

悠太は、席に座り、ウェイターを呼びビールを注文している。 軽くグラスを合わせた後、「趣味の友達ってなんの趣味ですか?」と東城は聞いている。 それから竜崎の方を向いて冗談めかして言う。「お前に趣味なんてあるんだ。仕事しかしてないと思ってた」 悠太は、楽しそうな笑顔で答える。 「美術鑑賞ですよ。現代美術が好きで」と悠太は答えた。 「げんだいびじゅつ」と東城は言っている。竜崎に顔を向ける。「そんな趣味があったんだな。げんだいびじゅつって何だよ。やけに高尚だけど」 「美術館に行って楽しんでる程度ですよ」と悠太が竜崎の代わりに答えている。 竜崎はその会話を聞きながら、頭の中は混乱を起こしていた。 悠太が当たり前の顔をして話しかけてきたことに動揺していた。 どうして、自分の苗字を知っているのか。 一度も言ったことはない。 さらに、美術館に行く趣味のことも、なぜ、知っているのか。 確かに自分は時間の合間に好きな作家の展覧会に独りで行っている。 そのことは、今まで誰にも話したことはない。悠太にも友人たちにも、家族にもだ。 「俺の友人が、CGアーティストなんですよ」と東城が悠太に話している。「一応現代アートらしいんですけど。枝川っていう名前で」彼はそう言いながらスマホに自分の友人の作品を表示させて悠太に見せている。 悠太は、それをみて、うなずいていた。作風について的確な意見を述べている。悠太が現代美術が趣味だというのは本当なのだろう。 東城は悠太にどんな仕事をしているのか、どこに住んでいるのかといったプライベートなことを聞いていた。 悠太は全ての質問にあっさり回答していた。 近くのビルのIT系の会社に勤めている。 外資系の会社で、海外出張も多いので空港の近くに住んでいるということだった。 出身は静岡で、大学の時から東京に来ている。 独り暮らしは長い。 竜崎は今まで知らなかった悠太のことを短時間にあっという間に知っていった。

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