8 / 1596

act.1誘惑クローバー<7>

プリントを教室へと運び込んだ帰り道に職員室に立ち寄った葵は、例の双子の行方を尋ねてみたがその足取りは掴めない。けれど二人の情報は少しだけ手に入れることが出来た。 幼稚舎から大学までエスカレーター式の学園では珍しく、高等部からの編入生らしい。春休み中に入寮の手続きを終えているものの、職員室に居た教員の中には目立つはずの双子の姿を目撃したものは誰も居ないようだった。 編入生だからもしかしたら学園内で迷子になっているのかもしれない。 講堂には真っ直ぐに帰らず、双子の行方を探すことに決めた葵は思いがけず、最初に訪れた中庭でそれらしき人物を見つけることが出来た。 中庭の桜の木の下、芝生にごろりと転がる二つの影。風に遊ばれて舞い踊る花びらを二人して掴もうと手をひらひらと動かしている動作が見える。 けれど葵が二人に歩み寄る間に、その遊びにも飽きたのか、二人は体勢を変えて本格的に寝る仕草を見せ始めた。どうやら意図的に入学式をサボっていることは間違いない。 葵が更に距離を縮めても、二人はちっとも葵の存在に気が付かない。仕方なく、二人の真ん中にしゃがみ込んだ葵は彼等のブレザーの裾を両手でくいくいと引いて起こしてみる。 「「……ん?」」 寸分狂わず、似た声音が重なる。そして二人は同時に瞼を開き、一度互いに視線をやった後、ようやく葵に目を向けた。どうやら最初はお互いが犯人だと思ったらしい。 ツンと吊り気味の目に色白の肌。黒髪には二人して真白いメッシュを入れている。瓜二つの容姿の中で唯一違うのはそのメッシュの位置ぐらいだ。 「おはよ」 「「だれ?」」 またも二人の声が重なる。葵の知っている双子はその容姿も性格も対照的だから、これほどまでにぴったりと息のあった二人の様子は不思議でたまらない。 「絹川聖(きぬがわせい)くんと、(そう)くん、だよね?」 訝しげにこちらを見てくる二人に対し、名簿で見た名前を告げれば、どうしてと言いたげな視線が送られてくる。それぞれの名を呼んだ瞬間、それに合わせて肩を揺らしてみせるから、葵にはどちらが聖で、爽なのか、察しがついた。 「そうですけど、何か?」 「入学式、出ないの?」 聖のほうが少し棘のある声を向けてくる。けれどネクタイの色で葵が上級生であることは分かったのだろう。敬語を使ってくるあたり、悪い子ではないようだ。 「お説教ですか?」 まさしくサボっていた二人に対して、確かに早く入学式に出席するよう促すのが葵の役目なのかもしれない。でも葵はいわゆる”お説教”を二人にする気は毛頭ない。

ともだちにシェアしよう!