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act.1誘惑クローバー<8>
「こんな日は日向ぼっこしたくなっちゃうよね」
晴れやかな空の元で暖かな日差しを受ければ葵だって芝生に寝そべりたくもなる。混ざるように二人の間に寝転がって、芝生とともに自生するシロツメクサに手を伸ばした。
苦手なものの多い葵でも、シロツメクサの花で冠を作るのは得意だ。四葉のクローバーがあるかどうかの確認も怠らず、すっかり冠作りに夢中になり始めてしまう。
「「先輩、誘ってるんですか?」」
葵の侵入をジッと受け入れていた双子が口を開いたかと思えば、よく分からない事を言ってくる。
「うん?なにが?」
二人を交互に見やりながら問い返せば、どこか呆れたような溜息が同時に漏れ聞こえる。
「先輩、天然って言われるでしょ」
次に話しかけてきたのは爽のほうだった。葵の髪に触れたかと思えば、くるくると指に絡めて遊び始める。
彼の言う通り、太陽の光を反射するほど眩しい髪色は生まれ持ってのもの。
「髪の毛?天然だよ」
「あぁ、なるほど。髪っすか。やっぱり天然、ね」
納得したような、そうでないような。爽は不思議な表情で葵に笑いかけてくる。葵よりも年下だというのに、大人っぽい彼に目を奪われていると、今度は反対側の聖がそっと近づいてくる気配に気が付いた。
「んッ、なに?」
「あ、聖ずるい」
振り返るよりも先に耳たぶをかぷりとかじられる感触がする。不意打ちの攻撃にびくりと背中を跳ねさせれば、なぜか爽まで葵の耳に唇を寄せてきた。
「可愛い、耳だけじゃなくてほっぺも赤くなってる」
「ほんとだ。ウブなんだね、先輩」
「ちょ、なん、で」
両側から楽しげにちろちろと無防備な耳を弄ばれれば、さすがの葵もこの場から逃げようと思い立つ。けれど、二人の手が葵の背中をぐっと芝生に押し付けるようにしてくるから、ひ弱な葵では太刀打ちできない。
「んッ…あ、やめ、て」
耳へ悪戯をされるのは初めてではない。好きだからするのだと言われ続けているから、行為自体への嫌悪感はないが、それでも出会ったばかりの彼等から二人がかりで苛められれば蜂蜜色の瞳に涙が溜まるのに時間は必要なかった。
はらりと葵の頬に涙が伝ってようやく、双子の動きが止まる。
「ごめんなさい、先輩。怖かったっすか?」
爽が葵をなだめるように頭を撫でてくる。聖のほうは芝生と葵の間に腕を滑り込ませると、そのままウエストに手を回して葵を抱え上げてくれた。
「う、ん……大丈夫。ありがと」
起こしてくれたことへのお礼だったのだが、葵から非難をされる覚悟はあっても礼を言われるとは思わなかったらしい。二人は丸っきり同じタイミングで互いの顔を見合わせた。
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