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act.1誘惑クローバー<10>
くすんだオレンジ色の髪の彼は、朝葵を見送ってくれた幼馴染の京介 だった。その表情はただでさえ目つきが悪く不機嫌に見えるというのに、今は明らかに怒っている。
「葵、お前こんなとこで何してんだ馬鹿」
「どうしたの、京ちゃん?」
「どうしたの、じゃねぇよ。つーかこいつら誰だよ。触んな」
葵にひっつく二人を見やった京介はますます眉間に皺を寄せる。そして真ん中の葵をグイと抱き上げると、あしらうように双子に睨みをきかせ始めた。
葵がそれを止めようと口を開きかければ、ようやく京介の視線が戻ってくる。
「呼び出しても応答しないっつーから迎えに来たんだよ」
「あ、トランシーバー、置いてきちゃった」
「馬鹿。言っとくけどすんげぇ怒ってるぞ」
連絡用にと渡された無線機を受付に置いてきたことを思い出してようやく葵も事の重大さを感じ始めた。誰が怒ってるか、なんて聞きたくない。きっと葵が思い浮かぶ人で間違いないだろう。
「まーた変なのに懐かれてるしよ。マジで目離せねぇな、お前は」
京介に抱えられたまま強制的に講堂へと連行される道すがら、彼はそう言って叱るように頬を抓ってきた。そしてそれでも飽き足らないのか、一度葵を地面に下ろして壁に押し付けてくる。
「何もされてねぇよな?」
コツンと額を突き合わせて茶色い目で真っ直ぐ射抜かれれば嘘など付けない。
「あの、ね……」
「されたんだな?ったく、お前いい加減にしろよ」
舌打ちと共に京介が乱暴に唇を重ねてくる。乾いた唇に啄まれれば、キュッと胸が締め付けられて苦しくなってしまう。
「後で詳しく聞かせろよ。俺以外、許さねぇから」
そう言ってもう一度キスを落とした京介は、葵が反論する前にその体を抱き直して講堂への道を進み始めた。
“許さない”、そう言われてもキスも触れ合うのも、好きな人とする挨拶だと教えてくれたのは京介なのに。怒られる理由が分からなくて葵は咎めるように京介のシャツを握る手に少し、力を込めてみた。
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