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act.1誘惑クローバー<12>

「早くシたい」 輝くようなライトブラウンの瞳に見つめられれば、嫌だとは言えない。けれど、自らキスをするなんて恥ずかしくて出来そうもない。 戸惑う葵に、櫻は二つ、選択肢を提示してきた。 「じゃあ葵ちゃんの大好きなチューと、大嫌いなでこピンと。どっちがいいか選んで」 キスの他に示されたのは、たまに櫻がお仕置きと称して苛めてくる時にするものだ。クイーンにしては地味な罰だが、痛みに弱い葵には効果的だ。でも、能動的に動くよりも受動的な罰のほうが気は楽かもしれない。だから葵は後者を選んだ。 「……うぅ、じゃ、でこピンで」 「はい?え、何、聞き間違い?有り得ない。ムカつく。なにそれ」 急降下した櫻の機嫌。どうやら完全に選択を誤ったらしい。 「そんなに嫌なの?最近反抗的すぎる。僕のことが嫌いなわけ?」 「違います、嫌いとかじゃなくて」 「じゃあ何。奈央にはべたべた自分からくっつきに行くくせに。僕からは逃げてばっか」 今のことだけじゃなく、相当に葵に不満が溜まっていたようだ。普段意地悪ではあるけれど、葵には優しく笑ってくれることも多い彼のことが嫌いなわけがない。だが、完全にキレてしまっている様子の櫻には全く通じない。 「どうしたら伝わるの?全然分かんない」 指先までが造り物のように美しい櫻の両手。そんな彼の両手に頬を包まれて、そして性急に唇を重ねられる。 「……ン…あ、やッ」 「ダメ、嫌とか言わせない」 紅い舌をぺろりと覗かせた櫻は葵の唇をなぞり、そしてするりと口内に侵入してくる。彼を引き剥がすように柔らかな髪に指を絡めるが、ただふわりとローズの香りが立ち込めるだけでちっとも抵抗にならない。 そのままぐずぐずとなし崩しで口内を荒らされ、逃げ惑う舌を捕らえれられてきつく吸われてしまえばもう全身から力が抜けてしまう。 ただされるがまま櫻のキスに翻弄されてしまえば、口端から溢れ出た唾液が頬をつたり、首筋にまで垂れる感覚に腰が震える。 腰から湧き上がる甘い疼きをやり過ごせなくなってきた頃、ようやくこの時を止めてくれる人物が現れた。 「お前たち、随分堂々としたサボりだな」 冷ややかな声の主は、壇上に居たはずの忍だった。 「あれ、忍、早かったね」 「舞台からしっかり見えていたよ。だから、予定より早く切り上げてきた」 つまらなそうに、けれど、渋々唇を解放されて、葵は目の前のシャツにすがりついて荒い呼吸を必死に整える。忍に何と思われるか、頭の片隅では不安がよぎるものの、体がちっとも言うことを聞いてくれない。

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