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act.1誘惑クローバー<13>

「で、どうしてこんな事に?」 「聞いてよ忍。葵ちゃんってば、仕事サボって一年と遊んでたらしいよ」 忍の問いかけに代わりに櫻が答えてくれるものの、葵の意図するものとは違う。けれど、まだばくばくと鼓動を繰り返す心臓を押さえるのに必死で忍を納得させる説明が浮かんでこない。 「なんだと?葵、だから気をつけろと言っただろう?それに……変な虫をつけて来たらお仕置きだと、そう言ったことも覚えてるな?」 櫻に凭れ掛かる葵に容赦なく忍が手を伸ばしてくる。けれど、その手を払ったのは意外にも櫻だった。 「大丈夫、お仕置きなら僕がするから」 「お前はただ葵を泣かせるだけだろう。それでは教育にならない。しっかり覚えさせないと」 「忍だって泣かせるでしょう?何が違うの」 言い争いを始めた二人に、逃げるチャンスだと察した葵は出来るだけ静かに櫻の体から離れようとする。腰を上げてパイプ椅子から足を地面につける所までは成功した。だが、二人が見逃すわけがない。 「葵、まだ話は終わってないぞ」 「逃げるならペナルティ、三倍になるからね」 「ちゃんと、仕事します……だから」 “許して”、その言葉は舞台袖から新たに現れた人物を見つけて、飲み込んだ。 「みゃーちゃん!」 「アオ、迎え、来た」 今朝方、葵のベッドで熟睡していた都古(みやこ)だった。彼は昨年高等部から編入し、友人となった存在。でも短い時間で随分と仲を深めた彼は、今では葵のペットを自称するほどべったりと甘えてくる。 「猫ちゃんか。厄介な邪魔者が来たね」 「飼い主なら躾けておけ」 都古を見るなり、櫻も忍も口では不満を垂れるものの強引に葵を押しとどめようとする手を緩めた。 都古は葵の身長に合わせるために背中を丸めがちで目立たないが、相当細身の部類には入るものの背筋を伸ばせば180近い長身の持ち主。 眉の位置で揃えられた短めの前髪に高い位置で結われた艶やかな黒髪、きりりとした顔立ちが武士を彷彿させる容姿をしている彼は、その見た目を裏切らず、格闘技が得意だ。葵のペットと名乗るのも自然なぐらい、忠実なボディガードとして役立っている。 まともにやりあえば無傷では済まない。 だから賢いツートップは葵を都古の前でこれ以上苛めるのは得策ではないと手を引いたのだ。

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