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act.1誘惑クローバー<14>

「行こ?アオ」 「あ、でもまだ片付けがあるから」 「……行こ」 駆け寄ってきた都古にあっという間に抱き上げられてしまうが、そのままこの場を立ち去ればきっとまたサボったと言われてお仕置きが増えるに違いない。それを懸念して嫌がったのだが、都古は葵の目に溜まる涙で良からぬことが行われたことを察知したらしい。 断固として譲らず、葵を軽々と抱き上げたまま走り出してしまった。こうなれば葵も抵抗のしようがない。振り落とされないようにただぎゅっと都古が普段着として身に纏う浴衣の袂を掴んで耐えた。 都古が走る速度を落としてくれたのは、寮が見えてきた頃だった。 「も、また怒られちゃうよ」 「……そしたら、辞める?」 「辞めない」 下ろしても尚、ぴったりとくっついて甘えてくる都古に、葵はほんの少し恨み言を口にする。けれど、葵の猫はちっとも反省しないどころか、それで生徒会を辞めてしまえばいいとさえ言い出すのだ。 「俺、やだ」 「前は我慢できたのに、どうしてダメなの?」 生徒会役員だったのは一年の頃も同じ。けれど都古は事あるごとに辞めろと主張してくる。それが何故なのか、葵にはどうしても理解できない。 放課後、生徒会の活動に出かけている間寂しがらせている自覚はあるが、それはいつものことだ。そのぐらいは我慢して欲しい。 「あいつら、嫌い」 「誰のこと?」 「さっき、アオ、苛めてた」 そこまで言われてようやく都古が嫌いな人物が誰なのか分かった。確かに忍にも櫻にも葵は苛められがちだ。でも彼等は葵が憎くて意地悪なことを言ってくるわけではない。 「二人共優しいんだよ。みゃーちゃんも仲良くなってくれたら嬉しいんだけど」 「絶対、やだ」 「今年はもうちょっとお友達増やそうよ。ね?」 ぎゅうと音が鳴るぐらいしがみついてくる都古の髪を梳きながらなだめても、都古はちっとも頷いてくれない。 「欲しいのは、アオ、だけ」 彼はいつもこう言い張る。葵だけ居ればいい。そう言ってくれるのは嬉しいが、幼い頃の自分のように、世界を広げようとしない都古にどうにかして楽しいことを一つでも多く見つけて欲しい。 「そうだ、みゃーちゃん。さっきね、みゃーちゃんと同じで高等部から編入してきた子と会ったんだよ」 「……それ、一年?」 「そうだよ。双子だったの。七ちゃんと綾くんとは違って、そっくりだった」 クラスメイトの双子の名を出したが、都古はあまり興味がなさそうである。同じ境遇の生徒の話なら反応するかと思ったのだが、効果は見られない。 飽きもせず葵にくっついて、そして淡い色の髪にひたすらキスを送ってくる始末。今年もきっと都古は自分にべったりと離れないのだろう。

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