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act.1誘惑クローバー<15>

「みゃーちゃん、クラス離れちゃったらどうする?大丈夫?」 「クラス?一緒、でしょ?」 明日の始業式前に発表されるクラス替えの結果を心配して問えば、都古はさも当たり前のように返事をしてくる。どうやら普段寝てばかりの彼は、クラス替えの事実を知らないらしい。 傷つけずに伝えるにはどうしたらいいだろうか。葵は思い悩みながら寮への道を進んでいく。もちろん都古をくっつけたまま。 寮に戻れば、入り口では京介が二人の帰りを待っていた。段差に腰掛けぷかぷかと紫煙をくゆらす姿はどう見ても高校生には見えない。 「また吸ってる。先生に見つかったらどうするの?」 「今更分かりきったこと注意してこねぇだろ」 幼馴染がこれ以上停学を食らわないよう心配したというのに、吸い殻を排水口に放り込んで立ち上がる姿はちっとも悪びれていない。 けれど、葵へと伸ばされる手は無骨だけれど優しい。 「怒られた?」 「……ん」 櫻の元に返したことを少しは気にしていてくれたらしい。拗ねたように頷いてみせれば、京介は詫びるように頭をぽんと撫でてくれる。 「自業自得だ、馬鹿」 言葉は厳しいが、彼が人一倍面倒見が良いことは葵が誰よりも知っている。物心ついた時からの関係なのだ。 どうか明日のクラス替えでは、京介と、そして都古。二人と一緒のクラスになれますように。何度そう願ったか分からない。都古をなだめたばかりだというのに、離れたことを想像してぎゅっと胸が痛くなってしまう。 そしてふと、ブレザーに忍ばせたものの存在を思い出した。 「あのね、今日四葉のクローバー見つけたの」 ポケットから出したのは、聖と爽に話しかけた時に見つけた幸運のアイテム。これがあればきっと良いことがあるはず。 でもてっきり一緒になって喜んでくれるかと思った二人の表情は微妙だ。 「お前さ、これ……」 「京介、言うな」 「何?」 何かを言いかけた京介を都古が鋭い目つきで静止する。葵が聞き返しても二人は何も教えてくれない。ただ慰めるように都古は抱きつく腕に力を込め、京介はより柔らかく頭を撫でてやる。 それもそのはず。葵が手にしているクローバーは三葉の一つが割れてしまったもの。見せかけの四葉、なのだ。でも葵が信じ切っている以上、指摘しないのが優しさ、そう二人は判断したのだ。 二人の間でにこにこと安心しきった様子の葵はもう一度、この三人の時間が永遠に続くようにとクローバーに祈りを込めた。

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