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act.1誘惑クローバー<17>

* * * * * * 始業式の朝、開け放したままだったカーテンの隙間から漏れる遠慮のない朝日を浴びて、葵は心地の良い眠りから目を覚ました。眠った時と変わらず、自分の右側にはぴったりと都古が寄り添っている。 しかし左側を見やれば、そこにはあるはずの京介の姿がなかった。 高等部の寮では一年と二年の間は二人部屋が原則だ。けれど生徒会の役員は対象外。彼等は学園を統括する身分に相応しい、専用フロアを与えられている。 けれど、葵が今居るのはその専用フロアの自室ではない。葵の意向で、一般生徒と同じフロアにある部屋の一室を一人部屋として利用しているのだ。 葵自身は他と同様に誰かと一緒の部屋でも構わなかったのだが、その相方として京介と都古が名乗りを上げ喧嘩をし始めたから、葵が一人になるのが落とし所となった。 とはいえ、一人で眠るのが苦手な葵のために結局二人共が葵の部屋に入り浸っている始末。嬉しい半面、葵は少しだけ、二人に負担を掛けているのではないかと不安に思わずには居られない。 「みゃーちゃん、朝だよ。起きて」 指先までしっかりと絡めて離さない都古を起こすために空いた手でその肩を揺さぶるが、熟睡中の都古はなかなか目を覚ましてくれない。これも毎朝のこと。 無理やり手を引き抜けば途端に起き上がってくれることは分かっているのだが、目覚めた時の都古に泣きそうな顔をさせてしまうから、葵は出来るだけその手法は取りたくなかった。 優しく揺さぶったり、まだ結われる前の長い黒髪を梳いたり、筋の浮いた首を擦ってたり。考えられる方法を全て試してみるが、眠りの深い都古を起こすにはどれも甘すぎるものだ。 どれぐらいそうしていただろう。困り果てた葵を助ける存在がようやくドアから姿を現してくれた。 「何してんだ。頭叩きゃ一発だろ」 それは相変わらずの緩い着こなしでは有るが、すでに制服に着替えた京介だった。京介は言葉通りためらいなく都古の頭を乱暴に叩いて無理やり起こしてみせる。 「ちょ、京ちゃんひどい」 暴力的な手段を取った京介に葵は非難の声を浴びせるが、都古は特に痛がる様子もなくただ眠そうに瞬きを繰り返して身じろぎをした。確かにこの手荒な方法は効果があるらしい。

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