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act.1誘惑クローバー<19>
結局朝食もロクにとれないまま登校する羽目になった三人は、寮から高等部の校舎へと繋がる桜並木の下を慌ただしく進んでいた。
校舎の入り口には新しいクラスの発表が掲げられた掲示板が設置されている。すでにその周りには人だかりが出来ていて一喜一憂、様々なドラマが繰り広げられていた。
「さすがに近付いて来ると緊張するね」
幸運のクローバーにお願いをしたとはいえ、葵はその効果がどれほどのものか心配で堪らない。
ドキドキしながら人だかりに近づくと、その中から弾丸のように小柄な人物が飛び出てきた。
「あーおーいーちゃん!おっはよー!」
真っ直ぐに葵の体に飛び込んで来たそれを葵は受け止めきれずに後ろによろめくが、京介と都古がすぐに背中を支えてくれたおかげでなんとか踏みとどまる事ができた。二人が居なければ大惨事になっていただろう。
「七ちゃん?」
ぎゅっと抱きついてくるから葵からは顔は見えないが、自分よりも小柄な友人となると、中等部からの親友、七瀬 しか思いつかない。声を掛けるとパッと顔を上げたのはやはり七瀬だった。
「チビ、危ねぇだろ。んでうるせぇよ朝っぱらから」
「悪いな、西名。新学期だからテンション上がってるんだ」
危うく葵に怪我をさせるところだったことに怒る京介に詫びるのは、七瀬を追うように着いてきた綾瀬 。この二人は身長も顔も声も性格も、全く似ていないが正真正銘の双子である。
七瀬は葵にひけをとらない小柄さと、ちょっと眠そうな垂れ目がチャームポイントだが、性格はいたって自由奔放で凶暴でさえある。小さな体からは想像もつかないパワフルさでたびたび周囲を困らせている。
対する綾瀬は学年首位の成績を貫く優等生。ほとんど表情を崩さず落ち着いていることから、少し近寄りがたい印象を与えるし、綾瀬自身も親しい間柄以外に対しては至極冷たい態度をとりがちだ。
身長差が三十センチほどある彼等の共通点と言えば、左目の下にある泣きボクロぐらいだろう。
「このあいだの七と今の七、何が違うでしょうか!」
綾瀬の言うとおりテンションの高い七瀬は京介の苦情になど耳を貸さずに、葵にいきなりクイズを出し始める。すぐに考えだした葵だが、案外答えは簡単だった。七瀬が強調するようにずっと前髪をいじっているからだ。
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