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act.1誘惑クローバー<20>

「わかった、前髪がピンクになってる!」 「正解!かわいいでしょ?思ってたほど色入らなかったんだけど、気に入ってるんだ」 「うん、かわいい。似合ってるよ七ちゃん」 自慢げに見せびらかす七瀬に、葵も素直に頷いてしげしげと前髪を観察しだした。明るい茶色に染められたくるくるの猫っ毛は、前髪部分にピンクのメッシュが入れられている。はっきりと目立つものではないが、ポイントになっていて愛らしい。 けれど、葵と違って周囲の反応は微妙だ。 「綾瀬、あれ止めなかったのか?」 「いや、止めたんけどな。今度は全部ピンクにするなんて言い出したから。それだったら前髪だけのほうが……」 「まぁそうだろうな」 チビの世話をしている者同士、京介と綾瀬は互いの苦労が通じる貴重な友人だ。だが、綾瀬と七瀬の関係は、京介と葵の関係とは少々異なっている。 「ね、綾。まだ文句言ってるの?これ可愛くない?」 「もちろん可愛いよ、どんな七も」 京介との会話を聞きつけた七瀬が綾瀬に詰め寄れば、綾瀬は他には決して見せない甘い表情で甘い台詞を平然と口にする。そこには普段”氷の君”なんて呼ばれているほどクールな優等生の姿は見当たらない。 そう、二人は双子というだけの関係ではなく、絵に描いたようなバカップルなのだ。 色恋沙汰には疎すぎる葵には二人はただの仲良し兄弟にしか見えていないが、学校でも平然といちゃつく彼等は全校生徒公認の名物となりつつある。 綾瀬の甘さが七瀬の我儘を更に助長しているんだと言いたげに京介は綾瀬を一瞥するが、すっかり二人の世界に入ってしまった彼等にはもう何の効果もないようだった。 「ねぇ京ちゃん。クラス分け、見える?」 苦々しく双子を見やる京介の意識を戻したのは、葵だった。葵は親友とも呼べる二人の仲睦まじい姿を見ることは好きだが、今はやはりクラス分けのほうがどうしても気になってしまう。 背の高い京介なら人だかりに埋もれている掲示板が見えるのではないか。そう思い、シャツを引っ張って呼びかけたのだ。 「いや、さすがに下の方は見れねぇわ」 「アオ、俺の上、乗る?」 いくら京介でも人の頭で隠れた掲示板の下半分は覗き見ることが出来ない。残念がる葵の表情に、今まで押し黙っていた都古が不意に口を開いた。

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