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act.1誘惑クローバー<21>

「みゃーちゃんの上?」 「うん、肩車」 「や、ちょっと待って、それは恥ずかしい」 すぐにでも腰に回した手に力を入れて持ち上げようとしてくる都古に、慌てて葵は首を横に振る。二人きりのときならまだしも、生徒が集まる場所で都古に抱えられれば、目立つのは避けられない。 それでも大好きなご主人様の願いを叶える使命感からか、なかなか都古も引かずに離れない。京介が非力な幼馴染の代わりに都古を引き剥がそうとするが、余計にムキになるだけ。 しかし埒の明かない三つ巴の状態を解消させたのは、意外にも二人の世界に浸っていたはずの七瀬だった。彼は綾瀬といちゃつきながらも、しっかりと会話を聞いていたらしい。 「あ、七と葵ちゃん、一緒のクラスだったよ。ついでに都古くんも。よろしくね」 すでにクラス分けを見てきた七瀬があっさりと結果発表をしてしまう。 知ってしまうとなんだか自分で掲示板を見るドキドキ感がなくて物足りない気がしたが、葵は仲良しの七瀬に都古まで一緒のクラスだと知れてすぐに笑顔で喜びだした。 けれど、すぐに表情に陰りが出てしまう。 「京ちゃんと綾くんは?別?」 「そう、残念だよね」 七瀬は葵ほどダメージを受けてはいないらしい。 七瀬達は全寮制にも関わらず、実家が近所だからということで自宅通学を許されている身であるし、そうでなくても四六時中共にいるのだ。葵のように子供っぽく寂しがるような真似はしない。 それでも葵は大好きな人と離れてしまうことをあっさりと受け入れる七瀬が不思議でならない。 「七ちゃんは、綾くんと離れて寂しくないの?」 「ん?寂しいよ?けど、しょうがないじゃん」 七瀬はその見た目から幼いと思われがちだが、現実的でシビアな面を持っている。なんだか自分ばかりが寂しいようで、葵はますますシュンとうなだれたくなる。 そんな葵の様子を見てむくれ始めたのは、飼い猫だった。 「アオ、俺が居る」 自分と同じクラスであることを喜ぶより先に京介と離れたことを寂しがられれば、都古が拗ねたくなるのも無理はない。 「俺じゃ、だめ?」 「だめじゃないよ、すごく嬉しい。けどまた三人一緒が良かったなって」 真っ黒な瞳で見つめてくる都古に葵は慌てて取り繕うが、三人一緒が良かったのが本音だ。京介と都古。その間に居るのが当たり前になっていて、これ以上安心する空間は無いと思えるほど。 甘えるように首筋に顔を埋めてくる都古の髪を撫でてやりながら、葵は無事に今年度を過ごせるのか不安を感じずにはいられない。 葵と同じく、苦い顔をするのは京介だ。 「三人一緒、な」 葵が京介単体を求めているわけではなく、あくまで都古とセットで必要とされているのだと知ればぼやきたくなるのは止められない。そんな京介を肘で突きながら、七瀬がとんでもないこと言ってくる。 「二人共報われないねぇ。どうすんの、もう三人で付き合っちゃえば?」 「は?三人でって、正気か?」 「今だって似たようなもんじゃん。三人で夜寝てるんでしょ?」 七瀬は事あるごとにこうして京介や都古の恋をかき回そうとしてくる。確かに現状三人で過ごす時間が圧倒的に多いが、生憎京介は都古に葵を譲る気はさらさらない。 隣家に越してきた葵に、物心ついた時から恋しているのだ。十年以上の片想いをそう簡単に諦められるわけがなかった。 それに、都古だって同じ気持ちだろう。彼は葵とはまだ一年という付き合いの短さではあるが、葵に己の人生を捧げるほど心酔してしまっている。 そんな存在を京介とシェアするなんて彼には到底無理に違いない。

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