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act.1誘惑クローバー<22>

「七は、二人でしっかり葵ちゃん捕まえておいたほうがいいと思うけどね。どう考えても会長も副会長も葵ちゃん狙いでしょ?下手したら取られるよ?」 「うるせぇ、お前に言われなくても分かってるよ」 七瀬が懸念する気持ちも分かる。都古とは違い、京介は比較的快く生徒会に送り出してやってはいるが、葵と共に過ごすためだけに急に役員に立候補した彼等のことを信用出来るかと言えばそうではない。 今だって、葵はこの後行われる始業式の準備のために、彼等のもとへ向かおうとしている。都古に必死に止められて困った顔をする葵を、京介だって繋ぎ止めておきたい。 けれど、葵が困ったように視線をこちらに向けてくるから助けないわけにもいかない。 「馬鹿猫、止めたらまた葵が怒られんだろ」 「でも、やだ」 葵にしがみついて首筋に甘噛まで始めた猫の頭を叩いても、彼は一向に離れる気配がない。 「葵、行ってきな」 都古のシャツの襟首を掴んで強引に引き剥がせば、今度は嫌々ながら彼の体が葵から離れてくれる。 力は強いが体自体は大分細身の部類に入る都古。彼がガタイの良い京介に抵抗するには葵により強くしがみつかなければならない。小柄な葵にこれ以上の負荷を掛ける真似は、さすがの都古もしなかったのだ。 「じゃあ、またね」 細い手首に引っかかった時計を見ながら慌てて走り出す葵の背中を見送った京介は、都古の恨めしそうな視線を一心に受けていた。 「行かせたく、ないのに」 「それは俺も同じだっつーの」 前年度の生徒会は、葵をこれでもかと言うぐらい優しく守る空間が出来上がっていた。だから安心して任せていられたのだ。 けれど今年度新たに生徒会に参入した会長の忍は、学園始まって以来のプレイボーイと謳われている存在だし、副会長の櫻に至っては、葵を泣かせるのが趣味と公言するぐらいの人物である。 「でもあいつが懐いてんだからしょうがねぇだろ」 天真爛漫なように見えて、人見知りで臆病な幼馴染の姿をよく知っている京介は、危険人物であれ葵が懐いている人物から強引に引き離す手段は取りたくない。 「京介の、そういうとこ、嫌い」 「あ?何がだよ」 「言えば、いいのに。嫌って」 ツンとした目で睨んでくる都古には京介の本音などお見通しのようだった。葵を通じて共に居るだけで、京介と都古の気が合うかと言えば、そうではない。 だが、凝りもせずににやにや笑いかけてくる七瀬に対しての反応は珍しく一緒だった。 「ねぇ、だからさ、三人で付き合っちゃえばいいんじゃない?どうよ?」 「「絶対やだ」」 それすら見越していたのか、おかしそうに笑う七瀬が恨めしい。そしてそんな所すら可愛いと言いたげな綾瀬に対しても、憎い感情は否めなかった。

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