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act.1誘惑クローバー<23>

* * * * * * 始業式は入学式と同じ講堂で行われる。そのため昨日ほど大掛かりな準備は必要がない。それでも本来なら一番先に講堂に着いていなくては行けないはずの葵が到着したのは、集合時間ギリギリ。 「良かった、間に合ったね」 焦る葵を入り口で迎えてくれたのは奈央だった。 「昨日櫻に意地悪言われたんでしょ?ごめんね」 「いえ、トランシーバー持ってくの忘れちゃって、呼ばれてるの気が付かなかったのが悪かったんです」 どうやら奈央は昨日のことを伝え聞いていたらしい。自分のことのように申し訳なさそうに謝ってくれる彼に、葵は慌てて首を横に振って自分が悪かったのだと主張した。 「櫻はちょっと難しい所があるけど、仲良くしてあげてね」 「僕はそうしたい……ですけど」 葵は櫻のことが大好きだ。どこに怒りのポイントが潜んでいるか分からないが、たまに垣間見せる分かりにくい優しさも、それを示す柔らかい笑みも、葵はちゃんと知っている。 けれど、櫻は失敗ばかりする葵にそろそろ嫌気が差すのではないか。そう不安になる気持ちは抑えられない。 「大丈夫、櫻も葵くんと仲良くなりたくて仕方ないんだよ」 「そう、ですか?」 なだめるようによしよしと頭を撫でられれば、途端に不安が溶け出していく。奈央の手には不思議な力が宿っているのかと思わせるほど、癒やし効果がある。だからまた葵は甘えるように奈央にくっついて一緒に講堂への扉を潜り抜けた。 だが、講堂に入るなり腕組みして立っている櫻に見咎められてしまう。その視線の先は奈央のカーディガンの裾を掴む葵の指先に注がれている。 「葵ちゃん、遅刻。昨日といい、ちょっとたるんでるんじゃないの?」 「あ、ごめんなさい」 櫻の怒りの対象が言葉通りの遅刻だと思い、葵は素直に頭を下げる。だが、櫻が苛ついているのは奈央に甘えるその素振りなのだ。 「まだ時間になってないよ。それに入り口で僕が葵くん引き止めてただけ。怒らないであげて」 「また奈央にかばわれてるんだ。次から奈央に助けてもらったらお仕置き増やすルールにしよっか」 「……や、です」 慌てて奈央から手を離すが遅かったらしい。クイと顎を掴まれて上向かされると、長い睫毛に縁取られたライトブラウンの瞳に射抜かれてしまう。

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