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act.1誘惑クローバー<24>

「じゃあ、何したらいいか分かるよね?」 彼はまた、この場でキスしろと要求してくる。奈央も見ているし、周りには昨日以上に人が大勢いる。鈍い葵でも、今講堂中の視線が自分たちに注がれているのは察していた。 「早くしなさい」 気高い声音に再度命じられると、本当にしなくてはならない事だと思わせられる。彼の身に纏うベストに指を掛け、少しだけ背伸びをしてみせれば、満足げな微笑みが返ってきた。 一瞬だけ。ほんの一瞬恥ずかしさをこらえれば、櫻の機嫌が直ってくれる。そう思ってぎゅっと目を瞑り、もう少しつま先に体重を掛けてみた時だった。 「葵くん、櫻に乗せられちゃダメ」 言葉だけでなく、葵の口元を己の手で覆って奈央は葵を叱ってきた。そのまま後ろから抱えるように引っ張られて櫻との距離を強制的に離される。 「櫻も、人前で何させようとしてるの?」 「人前じゃなかったらいいの?」 「揚げ足取らないで。人前じゃなくてももちろんダメに決まってる」 邪魔をされてまた櫻の機嫌は悪くなってしまった。そして彼の攻撃の対象は葵から奈央へと移り変わった。 「へぇ、奈央は葵ちゃんにキスさせたくないんだ?妬いてるの?なんで?」 「なんでって……それは、だから…」 奈央の頬がみるみるうちに赤くなっていく。そして葵を抱きしめる手も解け、慌てて体を離す動作もとられてしまう。 姫を守る王子としては、やはり奈央はウブすぎるのが難点だ。 櫻からすれば、からかい甲斐があって面白いのだが、彼がこの場にいる限りは葵との接触はこれ以上叶わないのは明らかだ。 「ま、いいや。そろそろ準備始めないとね」 そう言って案外あっさりと引いた櫻は舞台上で陣頭指揮をとっている忍の元へと向かってしまった。 その背中を見送る葵も奈央も、拍子抜けして顔を見合わせてしまうが、安全が確保されればそれ以上戸惑う理由はない。彼等もまた、忍からの指示を受けるためにその輪に加わろうと共に舞台へと足を向けた。 それから入学式への準備の間、奈央は極力葵の傍を離れないでいてくれた。一度は安心したとは言え、櫻がまたちょっかいをかける危険性を察知していたのだろう。 だが、奈央はそんな姿を、唇を噛みながらつまらなそうに見つめる櫻の視線までには気が付いていなかった。

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