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act.1誘惑クローバー<25>
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始業式を控えた一年の教室はどこも騒々しく、ちっとも落ち着く気配がない。
新しい環境で浮かれている、ということもあるが、多くの生徒は始業式の舞台でまた、麗しい生徒会役員の姿を一度に見ることが出来るとあって興奮しているようだった。
自分は誰派か、なんてまるでアイドルに向けてのような会話を繰り広げているグループも多い。
幼稚舎からの一貫校であるこの学園。
思春期を迎える中等部辺りから多くの生徒が、自分がいかに普通の恋愛からかけ離れた環境にいるか、ということを認識し始める。
全寮制の男子校。そんな悲劇的な環境を嘆く生徒たちは先に大人になり始めている先輩の姿を見て、恋愛の対象を身近な同性へと向ける術を覚えてしまうのだ。
今まで何の気なしに遊んでいた同級生や、あまり接点のなかった先輩がいきなり対象となりえるその変化に、多くの生徒はのめり込んでいってしまう。
中等部でも生徒会なるものがあり、そんな生徒たちを統括するためにも憧れの的となりえる人物たちが役員を務めているのだが、全く同じ選考基準でありながら、高等部の生徒会ともなればその魅力は更に格段と上がる。
だから昨日の入学式でも見たばかりだというのに、早く始業式でも彼らの姿を見たいと願ってしまうのも致し方ない。
そして何も素敵な先輩なんていうものは生徒会役員に限った者ではない。あくまで役員はその代表であるだけ。寮や校舎内で見つけた一般生徒である先輩をお目当てにしている一年も居たりする。
高等部からの編入生である絹川聖と爽の双子も、早くもその空気に侵されていた。といっても彼らは昨日の入学式には出席していない。中庭で出会った葵が、もう二人のアイドルとしてしっかりと君臨していた。
だが、聖と爽は編入生であるがゆえに、この高等部では知らない者は居ないといってもいいほどの有名人である葵のフルネームも、そして素性も全く知らなかった。
よって、双子は始業式が始まるまでに、その容姿を生かしてあらゆる場所で葵に関する情報集めを敢行した。
「「ちょっと聞きたいことあるんだけど……いいかな?」」
申し訳なさそうに、けれど愛想よくにっこりと微笑んで寸分狂わずはもる美少年双子に問われれば嫌がる者は居ない。もちろん彼らの求めることを教えてやったら、見返りとばかりに双子のことを皆尋ねてきた。見たこともない双子、それもとびきりの美少年とあればこの学園で放っておかれるわけはない。
が、それまでの愛想はどこへやら。聞きたいことだけ聞くと、双子は急にその少しきつめな目をつまらなそうに歪ませてさっさと引き上げていき、そして新たな情報を求め違う生徒を捕まえる。その繰り返し。
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