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act.1誘惑クローバー<26>

「よし、こんなもんでいいっしょ」 「そんじゃ、まとめますか」 始業式が行われる講堂へ移動を始めるよう促すアナウンスが流れたのを合図に、二人は情報収集をやめ、講堂への道すがらそれをまとめる作業を始めた。 天気はいいが昨日よりも今日は風が強い。そのおかげで講堂に続く桜並木の道は散った桜が舞いに舞って大荒れである。 「とにかく、あの人の名前は藤沢葵、ってことでいいんだよね」 ひっきりなしに飛んでくる桜の花びらから顔を守るように手でガードしながら、確認をするのは聖のほう。問われた爽は頷き、ようやく知ることの出来た葵のフルネームに率直な感想を述べた。 「……キレーな名前」 「ね、めちゃくちゃ似合ってる」 聖も同じ気持ちだったのか、揃ってその名前を持つ葵の顔を浮かべた。そして同時にため息をこぼす。 葵の名前を知ることが出来たはいいが、その他の情報はほとんど聖と爽の二人にとっては辛すぎるものだった。 やはり幼稚舎からの内部生で現在高校二年生の葵。新しいクラス分けでは去年と同じA組所属になり、生徒会の書記を務めている。こんな肩書きはまぁいい。 体が弱くて体育は休みがち。だが努力家であり、勉強の成績は非常に良い。授業態度も真面目、風紀も守り、素直であるからもちろん先生受けもとてもいい。 読書好きでよく図書館に通っており、ちょこっとといわず大分天然ちゃんで不思議ちゃん。そんな情報も葵の内面を知るには役に立ったし、第一印象を崩さずに済んだことで二人も安心できた。 二人にとって問題なのはその後の葵に関するゴシップ情報、もとい葵近辺にいる野郎共の話である。 当然そんな愛され要素たっぷりでおまけに容姿まで可愛いとあれば葵はモテる。二人もそれは覚悟していたし、どんなにライバルが居ようともぐんぐん割り込んでいってゲットしてやると意気込むくらいあの一瞬で葵に惚れ込んでしまった。 けれど、もう周知の状態の噂を全く知らない様子の編入生に内部生は二人のそんな意気込みを崩すぐらいの衝撃的な話を次々と聞かせてみせた。 普通は二年からなれる生徒会役員に、一年のとき特例で葵がなったと最初聞いたときは聖も爽もそれほど葵が優秀なのかと勘違いをした。だが、実際は当時の生徒会長の計らいである。可愛い葵が誰かに襲われないように、と権力のある生徒会の輪に入れ守ったのだという。 そこまでする前生徒会長の存在に少し不安を覚えた二人は、情報をまとめる頭と口をやすめ顔を見合わせた。

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