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act.1誘惑クローバー<27>

「まぁ前年度、って言うからもう卒業しちゃってるわけだけどさ」 「うん、問題は前年度じゃなくて今年度生徒会のほうでしょ」 そう言って足をとめた聖に、爽もつられるように足をとめた。話をしているうちにもう講堂のまん前まで来ていた。そんなところで止まったわけだから、当然後から来ていた生徒たちに邪魔そうにどんどん追い抜かれていく。それでも二人は気にしない。 まだ見ぬライバルが現れる予定の講堂の入り口をにらみつけるように見渡すと、ようやく中へと足を踏み入れた。 初代学園長やらの大層な銅像の飾られたエントランスを過ぎると、まるでどこかの演劇場に来たかのような立派なホールが広がっていた。 壇上を端から端まで、そして高い天井までを埋める馬鹿でかいパイプオルガン。膨大な数の生徒と教師たち、そして必要ならば保護者までも全ておさめてしまうような真紅のベルベッド張りの座席群。その手すりにはひとつひとつ細く優美な彫り物がなされている。 座席の間の通路の足元を照らすのはアンティーク調の華奢でいかにも壊れやすそうなランプ。天井にはパイプオルガンに劣らないほどの大きさを誇るシャンデリア。ずっと見ていたらその輝かしさに目がくらみそうなくらいだ。 他の生徒たちは昨日の入学式でもここを使ったし、それにもっといえば式典の際はいつもここを使っているためその豪華さに改めて驚くようなことはない。だが二人は違う。 「爽、ここまでする必要あるのかね?だって始業式っしょ?」 「いや、絶対ないって。普通体育館とかじゃないの?なんだここ」 世界を飛び回っている有名なファッションデザイナーの母を持つ二人は、高校からといえどお坊ちゃま校のこの学園に通うことが出来ることからも世間一般では十分にお金持ちの部類に入る。だが、今まで何不自由なく生活をしてきたとはいえ、普通の公立の学校に通い育ってきた二人にとってはこの学園はあまりにも常識外れのことばかりである。 冬は寒いなんて文句を言い、逆に夏は暑くて死にそうになり、そして結局はさぼるしかないとまで思わせた式典の際のあの憎たらしい体育館。ここは冷暖房完備のようだし、一人ひとり座席がありそうなことからも、お偉いさんの話は座って聞いても良さそうである。

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