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act.1誘惑クローバー<28>
「最初からここに通えばよかったな、爽」
「うん、そしたら葵先輩とももっと早くに会えたし」
「ね。もっかいやり直したい」
そう思わせるほどの衝撃を講堂は二人に与えたらしい。決められた席に座った二人は、さっきまでまとめていた葵の噂話の続きをするのも忘れ、ひたすらそのふかふかの座席の感触と、なんとも言えない絶妙な空調、癒し効果のあるBGMに歓喜してはしゃいでしまった。
だが、開会のアナウンスがされると途端に我に返り、壇上に注目をやる。他の生徒も同じく、だ。
最初に壇上に出てきたのは校長である中年の男。学園のパンフレットで聖と爽が見た白髪でなんとも可愛らしい印象さえ与える小柄な理事長は病気のため欠席らしい。それを伝える校長は、多大な授業料をくれる生徒たちに頭が上がらないのか、挨拶の間中ずっと低姿勢を貫き続けた。
そんな校長の姿を見つめる全生徒の視線は当然温かくはない。それに、皆他にお目にかかりたい人がいるのだ。早く終わらせろ、と言わんばかりの空気に、校長は耐え切れなかったのか明らかに予定していた挨拶を途中で切り上げた素振りで、そそくさと壇上から消えてしまった。
そしてしばし間をあけた後、もったいぶって登場したのはすらりとした体躯に聖や爽と同じ色のブレザーを着たずいぶんと顔の整った生徒だった。
一体何者だろうか。二人が思案する暇もなく、瞬時にその生徒の登場を待っていたかのように確かなざわめきが講堂中に広がっていく。
聖と爽の前にいる生徒が、まるで恋する乙女のように自身の胸の前で手を組んで”忍様”と漏らすから、ようやく講堂中が熱っぽい視線を注ぐ彼が、聞き込み調査で名を知った生徒会長なのだと悟った。
本当に高校生かと疑いたくなるほど色っぽい笑顔で人差し指を口元に当てると、途端に講堂中のざわめきがぴたりと治まった。そして彼は落ち着いた声音で名乗り、始業式での生徒代表の挨拶をそつなくこなし始めた。
「あぁ、なるほど。あれが会長か」
葵の話を聞くついでに散々耳にした存在に、爽は納得半分呆れ半分な気持ちになった。確かに自分の二個上とは思えないほど大人っぽく、容姿も随分と端麗で、おまけに絶大なカリスマ性を持っていることも今の様子でよく分かった。
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