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act.1誘惑クローバー<29>

「ちがうよ、会長様だよ爽。様つけないと、怒られちゃいそうだよファンに」 そしてその状況を面白がってけらけらと笑いながら爽を茶化してくる相棒にも呆れてとうとう爽はため息をついた。 「やだなぁ、あんなのライバルなんて」 そして爽が更にため息をついてこんなことを愚痴りたくなったのにはわけがある。それが葵の情報集めの際に聞いたショックな噂と関連する。この全校生徒をたらしまくっている学園のキングが葵に夢中だという噂だ。 「ありゃ相当場数踏んでそうだからね。やっぱ抱かれちゃってんのかね、葵先輩」 答える聖も実に寂しそうだ。 忍と葵にまつわる噂はこうである。 それまで毎日のように生徒や、時には教員までたらしまくっていた忍が去年の冬を境にぱたりと乱れた生活をやめ、そして同時にそれまで接点のなかった葵と共に居るところをたびたび目撃され始めた。 ここまではどうやら事実のようで、次からが聖と爽に情報を提供してくれた生徒ごとにばらばらな展開となっている。 忍が何も知らない葵を開花させることにのめりこんで日々調教にいそしんでいる、とか。忍と同じく鬼畜らしい副会長と一緒に生徒会室では日夜葵を囲んでセックス三昧、だとか。 とにかくどの生徒も理由や経過はどうであれ、手の早い忍が葵を抱いていないはずがない、と認識しているらしい。 実物を見るまでは、葵の天然お子様な印象が強すぎてどの噂も信憑性にかけたが、壇上で今すらすらと知的なスピーチを繰り広げる生徒会長を見てしまうとそれも揺らぐ。あまりにもセクシーすぎるのだ。これはあの葵でも食べられかねない。 そうなるとこれからの双子の葵へのアタックの方向性もかなり変わってくるわけで、二人がまた大きなため息をつくのも無理はない。 それに、噂だから随分美化されていると思っていた会長が、誇張でもなんでもなく本当に耽美なお方であったのだから、葵と噂されているほかの人物たちもさぞ見目麗しいのだろうと落ち込みたくなる。 双子は自分達の容姿にそれなりに自信はあった。これで迫れば葵も落ちてくれるかも、なんて甘い期待もなかったとは言い切れない。だが、葵の周りに一癖も二癖もあるものばかりだと、自分達の容姿だけではとても勝負にならないことを悟る。 「「葵先輩、どこだろ」」 だからせめてもの現実逃避。二人はまだ少し先の予定である役員紹介でおそらく登場してくれるだろう葵に、ただ想いを馳せることにした。

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