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act.1誘惑クローバー<32>
「あ…んッん」
「耳、弱いよね。もう真っ赤になってる」
いつかの罰で知った葵の弱点。舌を移動させて左耳の軟骨をなぞると、額や頬をいじったときとは少し違った声が溢れる。指摘したとおり、耳も、そして頬も赤く染まって扇情的だ。
そしていい子にしていろという言いつけを守って必死に唇を噛み締め耐えている葵の姿は、更に櫻の気持ちを盛り上げる。
「ほんと、可愛い」
「ん、ん……やッ」
櫻がうっとりとした様子で言ったのと同時に、一気に耳の奥まで舌を差し込むと一際大きく葵の体が跳ね上がった。
「ダメ、動かないで」
それをやんわりと、だが有無を言わさぬ力で押さえつけると、櫻は叱るように柔い耳たぶをちょうど尖った犬歯が当たるように噛んだ。
「いッ、いたい…さくら、先輩」
当然来る痛みに、葵の体がまた跳ねる。大きな瞳にもじわじわと涙が溜まっていく。可愛い子の涙に滅法弱い櫻はそんな様子を見て、ますます欲情していくのを自覚した。
「反対側もしてあげようね。これ、葵ちゃんは泣くほど好きみたいだから」
そして舌をようやく抜かれて安堵する葵へ、悪魔のように囁いた。
そのあと右耳は、左よりももっとゆっくりもっとたっぷりと嬲ってやる。ぐちぐちと唾液を絡ませて耳を嬲ると、嫌でもその音が全て間近で聞こえるのか更に葵は恥ずかしそうに身を捩る。
時折舐めるのではなく、チュッと吸い付くようにされるのもたまらないらしい。
「あーあ、耳だけでこんなに泣いちゃって。これからどうするの?」
やっと耳を解放してやった時には、櫻が呆れて笑いたくなるほどに葵の顔は涙で濡れてしまっていた。
「これから……って?」
「なに、もう終わりだと思ったの?二日分のお仕置きがこんなもんで済むはずないでしょ」
確かにもういつも以上に泣かしている。葵も当然これで終わりだと思ったのだろう。まだまだ終わらないと告げれば、葵はまたじわりと涙を溢れさせた。そして櫻が予想だにしないことを提案してくる。
「おでこ?」
「ん、なに、おでこ苛めてほしいの?」
昨日も葵はキスよりも額への攻撃を選んだ。あの時の惨めな思いが蘇ってきた櫻は、柔らかな笑顔で葵を一度安堵させてからその期待を打ち壊す。
「痛いのがいい、なんてとんでもない子だね葵ちゃんは。でも残念。今日はもっと違うことしようね」
「……せんぱい?」
何も知らないくせに妖しい笑顔に危険は察したようだった。縋るように櫻が身につけているベージュのベストを掴んできた。
「こういう時は甘えてくるんだ?いつもは馬鹿みたいに奈央の傍から離れないくせに」
「……え?」
「嫌いなんでしょ?僕のこと」
抱えている不安をストレートに口にすれば、葵は目を丸くして固まってしまう。思いがけない問いだったのか、それとも図星を突かれて焦ったのか。
すぐさま好きだと言い返してくれれば、考え直す猶予はあったが、もうどちらでも良くなった。
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