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act.1誘惑クローバー<37>

「葵ちゃんには抵抗も拒否も許されないって初めに言わなかったっけ?やっぱり縛られたい?両手も両脚もきっちり動けないように縛ってあげようか?」 縛る、という直接的に怖がらせる単語で極限に達したのか、葵はとうとう今までの泣き方ではなく、幼い子供のように泣きじゃくりはじめてしまった。 そんな姿を見れば、普通は多少なりともなだめようとするだろう。けれど、櫻は生憎涙フェチである。葵の頬に手を伸ばして零れた涙を掬うと、それを自分の唇へと運び妖しげな微笑を浮かばせるだけ。 「うーん、どうしよう。本当はここで最後までするつもりはなかったんだけどね。シたくなっちゃった」 けれどすぐさま困った顔でこんな危険なことを呟く櫻はやはり普通の嗜好ではない。 「今日は葵ちゃんだけイカせてやめる予定だったんだけど……どうしようかな」 葵を背中からきつく抱きしめて首筋にキスをおくりながら櫻は勝手に思案を始める。 「でもローションないからなぁ。さすがに初めてじゃキツイよね。どうする?僕の部屋くる?それともとりあえず舌でめいっぱい解して、それから決めよっか」 返答が来ないのを良い事に、櫻は意気揚々と葵の下着に手を掛けた時だった。背後から重たいノックの音がした。 「あれ……忍?」 櫻が振り返れば、音も無くドアを開けた忍が部屋の内壁をノックしていた。その顔は傍からみれば至って冷静ないつも通りのものだが、櫻は忍との付き合いの長さでよく分かる。彼が非常に怒っている、と。 「そういうことは鍵をかけてするんだな」 忍がそう注意するが、櫻はもちろん当たり前のように鍵をかけたはずだ。万が一、一般生徒がうろちょろと控え室に遊びに来でもしたら困るからだ。 なら、どうして。櫻は忍を訝しげに睨みつけたが、忍のポケットから講堂のマスターキーが覗いているのを発見して納得した。口ではそう余裕ぶっているが、きっとあのマスターキーを使って必死に控え室の一つ一つを探していたのだろう。 そう思うと、櫻も動揺した心を少し落ち着けることが出来た。 「始業式は……?」 櫻が時計を見るとまだ葵を拉致してからそれほど経っていない。始業式が終わるには早すぎる。 だが、櫻は計算間違いをしていたのだ。 忍のスピーチのあと各委員会の紹介やお知らせ、新任教師の紹介が続く予定だった。だから最後の役員紹介までには何食わぬ顔をして葵を連れ帰れると思っていたのだ。 けれど、忍だけはスピーチが終わったあと一旦舞台袖に引っ込む。それを忘れていた。だからきっとそこで櫻と葵の不在に気付いた忍は来たのだろう。

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