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act.1誘惑クローバー<39>

* * * * * * 「……最後に、こちらの都合で大変申し訳ないが不在となった副会長は3-C月島櫻、そして書記は2-A藤沢葵。以上で役員紹介を終わる」 忍の淡々とした声が講堂内に響いた。そしてそれに続いて生徒達の不満そうな声があちこちで漏れだした。 櫻と葵が壇上にいなかったことにそれまでも生徒達はざわついてはいたものの、何か特別な演出でもあるのかもしれないと期待していたのだが、忍の言葉でそれは誤りだと分かったからだ。 せっかく美しい櫻と、愛らしい葵を拝めることを楽しみにしていた生徒たちが騒ぎたくなるのも無理はない。 そのあとすぐに司会をしていた放送委員が式自体の終わりを性急に告げたために、そんな生徒達のざわめきの声が一層大きくなった。 各クラス移動しろという教師達の声が響くが、生徒達が不在の理由を詮索するお喋りはやまずに講堂から出て行こうとする生徒もほとんどいない。 けれどそんな中、二年の列にしっかり並んでいた都古はお喋りに興じる生徒達をかきわけてステージへと走り出した。 「……アオ」 役員紹介で葵の姿が少しでも見られることを密かに楽しみにしていた都古。その葵がなぜか不在で、しかもあの都古が大嫌いな櫻も一緒に、となると心配でたまらない。 何かあったのかもしれない。そう思うと、普段からあまりいいとは言えない都古の顔色はみるみる青ざめていき、固く握られた拳は不安で震えてしまう。 「アオ、どこ?どこに、いる?」 弾丸のように走ってステージに上がってきた都古に一番最初に捕まったのは、片付けを始めた放送委員の一人。 「え?アオって?あぁ藤沢くんのこと?」 いつも葵といるおかげで、また珍しい編入生ということもあって有名な都古が葵のことを”アオ”なんて可愛らしく呼んでいることは多くの生徒が知っている。だから放送委員の彼も、わかってはいたが念のため聞き返した。 すると、その時間も惜しいといわんばかりに都古に無言で睨まれた。 「俺、はわかんないけど……誰か、知ってる、かも」 それがあまりにも恐ろしくて、彼は都古を他の生徒のもとへと仕向けるような発言をした。もっとも、式の間中マイクの調整や照明係に励んでいた彼が葵の行方など知るよしもない。 そうして都古に盛大な舌打ちをされ解放された彼は、都古が次々に葵の行方をその辺の生徒達に必死に聞いて回る姿をしばらく唖然と傍観していた。

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