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act.1誘惑クローバー<42>

* * * * * * 結局ステージやその裏にいた生徒達をとっ捕まえて尋問しても、葵の行方を知る人を一人として見つけられなかった都古。 けれど、忍が控え室のほうに向かったという情報をゲットしてそれを頼りに今走ってひとつひとつ控え室を探して回っているところだ。だがどこも電気がついておらず人の気配はない。 都古が諦めかけたそのとき、ある部屋が目に留まった。一つだけドアが開け放たれたままの部屋。電気もつけっぱなしである。テーブルの上にはなぜか目印のようにペットボトルが一つ、置かれてもいる。 どうしてここを最初に見つけられなかったのだろう。 都古は悔やみながら部屋に入るがやはりさっきまでの部屋と同じく、中には誰も居なかった。 けれど、都古は数度鼻をひくつかせて確信した。 「アオの、匂い」 そう、間違いなくこの部屋には葵の残り香がする。伊達に葵の猫、だなんて言い張っているわけじゃない。都古が好きでしょうがない葵の甘い香りを間違えるはずはなく、絶対に葵がここにいたと思う。 でも、それだけでは何も分からない。 都古はせっかく見つけたヒントも意味のないものと知ると、あまりにも走りすぎて切れた息を整えるために、部屋にあったパイプ椅子のひとつに軽く腰掛けて冷静に頭を働かせることにした。 「アオ……副会長……会長」 七瀬が今朝掛けてきた意地悪な言葉が耳から不意に浮かんでくる。 “どう考えても会長も副会長も葵ちゃん狙いでしょ?” “下手したら取られるよ?” やはり強引な手段を使ってでも葵を生徒会に行かすんではなかった。都古は新しい生徒会のメンバーが決まった昨年度の選挙後からずっと、葵の生徒会入りに反対をしていた。 昨日の夜だって、寝る前にずっと葵を説得していたのだが、もう決まって随分と経つし、葵の意思も固い。いくら葵に可愛がられていて大抵の我が儘は許してもらえる都古でも、あまりにもしつこすぎて叱られてしまった。 昨年度の生徒会長も副会長も今と違って、葵を大事に大事にしてくれた。そもそも葵を守るために生徒会に招き入れたのだ。だから都古も信頼していたし、むしろ生徒会に所属していたほうがよっぽど安心だとさえ思っていた。 なのに、二人が卒業してしまったあとの新しいツートップはやりたい放題している。これから一年も、大事な主人をそんな危ないところにいさせたくはなかった。

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